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隕石の堆積場

オーディエンス

家でテレビを見ている。画面にはライブイベントのような映像が映っていた。母がやってくる。私はその映像を見ていることがとても恥ずかしくなる。
私はそのライブ会場にいた。次々とアーティストが壇上に現れては去っていく。たくさんの出演者の中で、ついにその人が出てくる。胸が締め付けられる思いがして、息ができない。その人を直視できず、目を逸らした。会場は沸き返り、その中で私はひとり、湖面に投げ込まれた小石のように暗く沈んでいく。
彼が客席に降りてくる。最前席の人々の手を取り、次々と握手を交わしている。笑顔がぎこちない人のはずなのに、ペ・ヨンジュンみたいな完璧な微笑みを返している。私は余計に怖くなる。席を立って、遠く、彼から見えないところに新しい席を探す。空いている席を見つけても、どれも先約があり、断られる。ようやくみつけた隅の方の席に身をうずめる。
愛おしすぎて、気づいてもらえないことが怖い。気づかれず素通りされるくらいなら、見えないところにずっと隠れていたい。

夜の公園で、背の高い木に巨大な白い花がたくさんついているのを見上げている。マグノリアだろうか?と思ったけれど、見れば見るほどグロテスクな、巨大な百合のお化けのような花だった。真っ赤な雄しべがヒルか何かのようにうごめいて見えた。黒ずんだ緑色は闇に溶け出して、輪郭がはっきりしない。葉の総量に比べて、明らかに花のほうが多数で、均衡を欠いている。こぼれるように咲いているというよりも、花に寄生され、乗っ取られてしまったかのようだった。
一本の枝が、そこから逃れるように不自然に長く枝を伸ばしていた。天に達するほど伸びた一本の枝は、天に接続されたコードのようにも見えた。逃げるコードを追いかけるように、白い花が次々と開花した。
世界が涙で霞んで見える。

北側の小窓の前に佇み、家の外をぼんやりと見ている。観客の一人だった自分を思い起こす。
あの人が私を傷つけ苦しめるのなら、それはあの人ではないってことだ。本物ではないってことだ。傷が癒やされるのが本物なんだ。それが試金石になる。
そう思い直し振り返ると、彼がふっと現れて、私を抱きしめてくれる。背後にオーディエンスが何十人もいて、守護天使のように見守っていてくれる。北向きのトイレの前の窓辺は、人口密度が異常に高くなった。

猫のように飼われる

有名な悪魔のD閣下が、教室を見回した。数十人が着席する中、私に視線をとどめて溜息をついた。こいつは駄目だ、子猫のように飼ってやるしか無いな、と彼は言う。出来が悪すぎて匙を投げられているのか、大切に思われているのか、どちらか全くわからない。
子猫のように飼われる自分を想像する。飼い主次第では、世界中のどんな存在よりも幸せな気がした。密やかな悦びが私を満たした。

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お昼のテレビ番組でD閣下を拝見したら、なんと夢にも出演してくださいました。
一度、猫になって大切に飼われてみたい…

変わっている人

東大野球部に入り、そこで活躍して注目を集めプロ入りするという青写真を描き、実際そのとおりにプロ選手となった人物の伝記的な映画を観る。主演はなぜか韓国俳優のK。

普通なら強豪校に入ってそこで鍛えられることでプロを目指そうとするだろうに、Kは生まれつき独特の考え方をする人物だった。必死に勉強して東大に入り、その野球部で群を抜いた活躍をすることで世間に注目されるという道を選択した。実際にKはそこで活躍し、例年よりも東大の戦績を向上させた。メディアがKについて取り上げ、彼は一躍時の人となる。そして思い描いたとおりにドラフトで指名され、プロ選手となった。

彼の独特の人となりを、周囲の「普通の」人々との対比の中で描き出している。彼の家族や恋人も、それぞれ一癖ある人物で、世間の常識的な考え方に与しない。それぞれに尖っているのでぶつかりあうことも多いけれど、最終的に「変わっている」人々は変わっているがゆえにお互いを深く認め合う。

入団した彼はインタビューを受ける。どうして敢えて東大に入ってプロを目指そうとしたのですか? それをあらかじめ心に決め、実際に実現なさいましたが、一体何がそのような道を選ばせたのですか?
彼は答えた。緻密な計画を立てて策略をめぐらしたかのようにおっしゃる方が多いのですが、特に深く考えてこうしたわけではないんです。ただなんとなく、こうしなければいけない気がして、自分の内側の声に従っただけなんです。僕は頭空っぽなんですよ、ほんとに。
フラッシュが焚かれる中で、緊張し、はにかんだ笑みをこぼす彼は、自分に何が起こっているか本当によくわかっていないような顔をしていた。長く伸ばしたままの髪を後ろでひとつに結んでいる。それが彼のトレードマークになった。

月の魔術

月が雫をこぼしてる! あれは月の涙かな? あっ、いま月が裏返ったよ!
私は誰かと手をつないで歩きながら、ずっと夜空を見上げつづけている。月が私たちを観客に手品でも披露しているかのようで、一瞬も見逃せない。いつもと同じように黄色いその色が、何かとても新鮮な、初めて見る色彩のように感じる。

月は泣いたり笑ったり忙しい。月の涙は黄色く半透明で、夜空に散ったあと、きめ細かいスポンジのような闇に吸い込まれて消える。あの雫はどんな味がするのだろう。舌の上で想像する。ほの甘く、清らかな味だろう。
月がこんなに感情豊かだったなんて知らなかったねと、長い坂道を下りながら、私たちは話した。真黒な甍の上を、墨で描いたように雲が低く流れていた。この世界は月のためにあり、ただ月のためだけに用意された舞台であるのだと気づいた。

巨大ハンバーグ定食

ラグビーボールくらいの大きなハンバーグステーキを食べる。ランチのセットを注文すると、その巨大ハンバーグ、ライスとサラダの小鉢がが出てきた。周りの人たちも当然のようにそれを平らげている。そんなものなんだと思って、私もそれを食べる。食べきれないと思いきや、なんとか完食する。満腹で内臓が重く感じる。血管をデミグラスソースが流れているような感覚。

翌日、食卓に家族の人数分のお弁当が置いてあり、それぞれ好みのものを選んで食べ始めていた。最後に一つだけ残されていたお弁当は、昨日の巨大ハンバーグ定食と全く同じ内容だった。またそれを食べるしかない。もう肉食は卒業したいと願っているというのに、偶然が私を弄び、嫌がらせをしてくるようで不思議だ。
うんざりしながらも、二日目の巨大ハンバーグも完食する。こんな気持でいただくのは、肉を提供してくれた動物にも申し訳ないと思うけれど、もううんざりだという思いが、肉汁のようにとめどなく溢れ出て仕方ない。

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肉食が苦手になってきていて、ハンバーグなんて久しく食べていない。卓球の球くらいのミートボールが関の山なのに。