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女王と散らかった切り花

韓国ドラマ「善徳女王」をテレビで見ている。
実際のドラマとは異なり、時代背景は超古代のようであり、神話の世界のようでもあり、巨大石像が動いたり、動物の彫像が喋ったりする。そのシーンでも、主人公たちが古びて朽ち果てかけた木造の寺院に入っていき、ある小さな一室で、壁の中から大きな木造彫刻がぬーっと現れるのを目撃する。壁が青い光にとろけ、その中から突如として、異次元からたった今到着したかの如く、馬とも牛ともカバともつかない得体の知れない動物を象った彫像が現れた。そして低くエコーがかかったような声で、何かを呟いた。音としては聞き取れても、古代の言語のようで、意味が全くわからない。


次の瞬間、その寺院の一室が自宅のリビングに変わっていた。
先程まで女王の衣装を着ていた主演の女優が、現代の服装でそこにいる。ヒッピー風とでも言った雰囲気。フリンジのついたニットのロングベストを重ね、床につくほどのロングスカート。アースカラーのグラデーションがこなれた雰囲気で、とても似合っていた。腰まで届くロングの髪を強めのソバージュにし、無造作にハーフアップにしていた。サバサバとした佇まいで常に声が大きく、竹を割ったような男前の性格に見えた。


彼女は私に一冊の雑誌のようなものを手渡し、指定したページを読むように言う。その雑誌をめくると、ページ数を示す数字ではなく、代わりに暗号めいた言葉がそれぞれのペーシの隅に書かれていた。私は言われたようにそのページを読み上げた。予備校か何かの先生と生徒のようだった。


私の次に、ソファーで寛いでいた初老の紳士(某日本人俳優によく似ている)が指名され、「灼熱の太陽」というページから読むように指示される。彼は急におどおどした態度を見せ、どこを読んでいいかわからない様子。なんとかの太陽というのがあるけど、ここかなぁ? と呟いている。灼熱という漢字が読めないのか、文字が小さくて見えなかったのをごまかしているのか、どちらかだろうと私は思った。それとも灼熱という漢字は私の思っているものよりもっと難しい、私の知らない字なのだろうか?と不安になる。
女優は相変わらずでかい声で、そこで良いのだと指示を出す。飾り気のないその態度に、私は好感を抱き始めている。


自分の番が終わったので、私はキッチンに居る母のところへ歩み寄る。母は、大量の切り花をいくつもの花瓶に活けている最中だった。あまりに大量なので切り散らかした枝や葉っぱで床は足の踏み場もない状態だった。
母が「あっ!!」という声を上げた。どうしたのかと尋ねると、「踏んじゃった!」と言う。
「何を?」と訊くと、「手首!」
「……手首?」と私は驚いて訊き返した。
そこには、普通の人間の三分の一くらいに小さくなった父が、床の上に直に座り込んでいた。上体をやや反らせているのを両腕で支えるようにして、床に手をついていた。その手を踏んだということらしい。小さすぎて、誰もその存在に気づかなかった。


「踏んじゃった! 何を? 手首!」という会話を聞いていた女優は、突然けたたましく笑いだし、お腹を抱えていつまでも笑い転げた。
「手首! 手首!」と言って両手を叩きながら、よほどツボにはまった様子。
私は自分の会話で彼女がウケてくれたのが何となく嬉しくて、これをきっかけにもう少し仲良くなれたらいいなと思う。とはいえ心理的な壁が跡形もなく消えたわけではなく、まだまだ手探りで歩み寄り、関係を作り上げないといけないと思うと、そう簡単に行かない気がして、やや気持ちが重くなる。
子供の頃、春の新学期を迎えるたびに感じていた、少し懐かしいような心の揺らぎと、居心地の悪さを思い出す。