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Dépôt de Météorites

ゴム紐のように伸縮する世界

リビングに居ると、突然地震が起きた。下から突き上げるタイプの揺れで、発射されたロケットのような勢いでソファが宙に浮いた。2メートルほど垂直に浮き上がり、ドスンと落ちた。落ちた位置は今までの位置と僅かな誤差しかなく、ほぼ元通りのようになった。宙に浮いたのは一人掛けのソファで、私の座っていた大きな方はせいぜい10センチくらいの浮きに感じられた。


見回すと、他の家具も激しく浮いたものやそうでもないもの、まるで自由すぎて困る幼稚園児のように、節度も統一感もなくバラバラだった。それらはやはり揺れが収まると、数センチの誤差の中に収まり、元通りになった。世界全体が伸縮性のある素材でできていて、ゴム紐を引っ張って元に戻したように、空間全体をびよーんと引き伸ばされ、また元に戻されたように感じられた。


他に被害はないか確認しようと思い立つ。家中の家具はやはりほんの僅かに曲がっているだけで倒れたり壊れたりするものはなかった。壁にかかった絵だけがそれに比べて不自然に大きく、30°ほどの角度に曲がっていた。
暗い廊下を歩いて洗面所の扉を開けると、暗闇の中に、ここにはいるはずのない伯父が立っていた。私はびっくりして肝を冷やした。ここで何をしてたんですか、と尋ねるも要領を得ない返答が返ってきた。
玄関から人の声がする。近所のお宅の高齢男性が勝手にドアを開けて入ってこようとしている。こちらも要領を得ない返事が返ってきた。ご近所さんはズカズカと入り込んできて、何やら伯父と話している。その内容は聞こえていたのになぜか外国語のようでよく理解出来なかった。
面識もないはずの二人は、肩を組むようにしてそのまま玄関から出ていった。私はほっと胸をなでおろしていた。


二階に上がってみると、そこは友人Hの家だった。奥の部屋にベッドがあり、その上に沢山のぬいぐるみが並べられていた。いくつかは倒れたり転がったりしている。そのベッドは友人の妹さんのものらしい。
何十体とあるなかに、私がかつて手作りしたウサギとイヌのぬいぐるみが混じっていた。とても大事にしていたそれらが、なぜ妹さんのものになっているのか、愕然とした。
似ているけれど別のものかもしれない、と思った私は、ぬいぐるみのホコリを払うふりをしてそれとなく手に取り、よく観察した。どこからどう見てもそれは確かに私のぬいぐるみだ。これはなんとしても取り返さなければと思う。しかし事情を話しても理解してもらえるわけがない。あなたのぬいぐるみの中に私のものが混じっていたから返してください、と言っても首を傾げられるだけだろう。私のぬいぐるみだという証拠もないのだし、これは元々自分のものだと言い張られたら返す言葉がないのは目に見えていた。


私はそっとその二つを手に取り、隠して持ち出すことに決めた。平然を装ったが、かなりおどおどしていたのだろう。妹さんの方から声をかけてきた。それ、持ってっていいよ。
その時の私は、心臓が口から飛び出るという通俗的な表現そのままだった。しどろもどろに言い訳をする。妹さんはそれを聞いているのかいないのか、関心もない様子だった。
慌てて階段を降りようとする時、友人Hとすれ違う。私は自分のものを持って帰るだけなのに、盗みを働いたように挙動不審な、そんな自分がとても嫌だった。