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青二才と皇太子

斜め裏のお宅の猫、タローちゃんがよく遊びに来る。
うちのシルくんがいた頃からだから、もう6歳くらいになるんだろう。
うちの庭で寝転んだり日向ぼっこや雨宿りしたり、網戸に爪を立ててボコボコにされたりもするけれど、全く腹も立たない。ご近所のどの家にも出没するらしく、皆に可愛がられるアイドル的存在になっている。


シルくんは当時もうお爺さん猫で、若いタローちゃんが庭に来ると網戸越しに睨み合っていたけれど、いつも青二才のタローちゃんがビビってそそくさと逃げていくのだった。
タローちゃんは若気の至りで、お爺さん猫シルくんに対しても初めは偉そうな態度をとって威嚇していたけれど、シルくんは微動だにせず網戸の外を睨んでいた。私からはいつもその背中しか見えなかった。タローちゃんの表情がみるみる変わり、耳を外に向けて怯えた顔になった瞬間をよく覚えている。素直で、感情のわかりやすい子だと思った。うちのシルくんとは対象的だ。


ロシアンブルーのシルくんは、その見た目も気品があったけれど、ふるまいもどことなく上品だった。プライドが高く、哲学者のような複雑な顔をしていた。うちではそんなところから彼を時々「皇太子」と呼んでいた。
お爺さんになって皇太子も変だし、タローちゃんに対して見せた威厳を見れば、これはもう「即位」したね。私達は笑い、シルくんは王になった。


今もうちの庭でゴロゴロして、背中を地面に擦り付けているタローちゃんに、あの威厳のあったお爺さん猫を覚えてる?と聞いてみたいものだ。
シルくんが天国に行ってもう5年。
生まれ変わったら、シルくんになってマミーにかわいがってもらうの! がマミーの口癖になっている。


だとすると、シルくんは未来からやってきた、未来の私自身だったのかもしれない。