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死刑判決

駅を降りて、千人ほどを収容する小さなホールへ向かう。駅前は既にネオンサインが点灯し始め、家電量販店から大音量で流れる宣伝音楽がうるさかった。最後の審判を受けるような心持ちで足を進める。
ホールは駅前の喧騒と裏腹に、閑静な環境にあった。薄闇に沈みながらその建物は静かに呼吸していた。入り口を曲がると、ホールへと向かう黄色い声の女性たち。そのなかに混じり、私は息を潜めた。
私の席は前から十列目ほどの右寄りだった。じっと着席して待つ間、開演してしまうのが怖かった。


私は、ステージ上の人に恋をしていた。それが恋なのか、憧れなのか、愛なのか、執着なのか、ストーキングなのか、自分でも既に全くわからなくなっていた。
ステージ上の人と今たしかに同じ空間にいるのに、まるで映画のスクリーンを見ているか、あるいはまるっきり別の次元を分厚いガラス越しに垣間見ているかのように思われて、生の声を聞いていても全く現実感がなかった。
お前はあの人とは違う次元に居るのだ、接点などあるはずがないと、そう知らしめられることが何よりも辛く苦しい罰だった。


予想通り、私は罰されて、死刑判決が出た。そんな心境だった。終演し、他の観客と一緒にホールから吐き出される。駅へと戻る道はどこまでも黒く続き、私は夢遊病のように抜け殻となって歩いた。


たしかにこんな記憶があるのだけれど、それが現実の出来事で本当にホールへ行ったのか、あるいはそんな夢を見ただけなのか、わからなくなっていた。
あまりに惨めで辛い記憶だから、現実として受け入れられず夢のように感じるのか、逆に生々しすぎる感情を伴った夢だから、現実のように感じるのか。


もしこれが夢だったとすれば、他のすべての記憶、すべての感情までが現実のものでなくなってしまったような感覚、まさにすべてが夢と潰えたようだった。
過去の記憶も感情も全て実体がなかったと感じることは、自分の存在まるごと消えてしまうような恐ろしさだった。そのうえ、ステージ上のその人も、実在しないことになる。


かといってこれが現実であれば、この心理的な死刑判決も現実となる。
私は夢の中で、これは夢なのか現実なのかと逡巡していた。そしてどちらでもあってほしくなかった。