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研ぎ澄まされた緊張が解き放たれる瞬間

『弓』 キム・ギドク監督の2005年の映画を観た。

舞台である大海原をたゆたう船と同じく、夢幻の中をたゆたうように、物語は独特のテンポで進む。原色の散りばめられた背景。極彩色の仏画──。
老人と少女は、世界と隔絶された一艘の船の上で生きている。そこへやってきたひとりの若い男性に少女は心惹かれ、不可思議なバランスに保たれていた船の上の秩序を揺るがしていく。


印象的な、少女の妖艶な微笑み。年端もいかない子供のままの幼さと、本能として細胞に刻まれているとしか思えない完成された媚態とが同居する。
全く根拠はない直感だけれど、監督はこの物語を夢で見たのではないかな…?
老人が、首にかけたロープを切ろうとしたナイフを咄嗟に隠すシーンが、なぜか気になった。夢幻の中にあり、その部分だけが奇妙に理性的、現実的で、ふっとテンポが崩されたようで意識に残った。


張り詰めた弓から矢が発射される瞬間。それは射精の暗喩でもあり、死の瞬間の暗喩でもあるように感じた。弓のように美しく張り詰められた生を生きたい、とのラストのメッセージ。研ぎ澄まされた緊張が解き放たれる時、人生の真の価値が正しく計られるのかもしれない。