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過去の私は、私ではない

歳を取ることも悪くない。若さと引き換えに、若い頃には持つことのできなかった経験や知識という宝を得てきたのだから。そう胸張って言える人が羨ましくもある。


私は年月を経る中で、何を失ったのだろうか? 何を得たのだろうか?
私は、失った分だけ得ているだろうか……? 
自信はない。立ち止まり考えてみても、さっぱりわからない。


それを考えたところで、失ったものが戻るわけでもないし、得るものが増えるわけでもない。
過去は今ここからの視点でしか思い出すことができないし、未来も今ここで想像しているだけ。
与えられているのは今現在、この瞬間だけ。


記憶というものを私達は全面的に信頼しているけれど、それはかなり恣意的に書き換えられてしまうもの。都合の良いこと、または都合の悪いこと、意識するところだけ強調された、ドラマティックなストーリーに。解体されて眠るものを、今という瞬間にひとつひとつ組み立て直している。


過去を自分を支える基盤のように考えて、その上に存在することで安心しようとする、その心を疑ってみる。
過去の人生が別の人生のように、あるいは前世のように感じられる。
切れたパールのネックレスのように、すべてのパールが順序を失い、混沌のなかにある。
それでいながら、互いに互いを映し合っている。今という時に束ねられて。