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白さの果てにあるもの

『すべての、白いものたちの』 ハン・ガン著 読了した。

白いものたちを一つずつ連ねて、丁寧に丁寧に編んだ、ネックレスのような作品。
読み進めるうちに、白さが一枚ずつ増していき、やがて世界中の「黒」が「白」に反転してしまったような錯覚に陥った。 


子供の頃に、闇を突き詰めるという遊びを良くしていた。
目を閉じて、まぶたの裏の色を見つめる。その闇の色は、はじめはダークグレーのような色だが、じっと見ていると黒さが増してくる。黒く、さらに黒くなる。そして、どこまで行ったら完全な闇となって、限界にたどり着くのか試してみたくなる。けれど、必ずある地点まで行くと怖くなって、ぱっと目を開けてしまうのだ。この遊びは、大人になった今やってみても、うまく出来ない。
この作品も、少しだけ、それに似ている部分があるような気がした。


白く、白く、もっと白くなった先には、すべてが光に溶けてしまう。その光は胎児にとっての羊水のようなものであるかもしれないし、つんと沁みる消毒薬のようなものかもしれない。
そこは、いのちのない場所。すべてのいのちが光に還る場所。恍惚としてあたたかく、雪の結晶のように穢れなく冷たい。
白い闇は、私たちの心にヴェールをかけるようにそっと重なって、内包されている。その境界に、作家自身の、生まれてすぐに死んだ姉のいのちを甦らせる試み。弔いと祈り、喪服の白さの理由。それがこの作品なのかもしれない……そんな思いが胸に残った。


この作家さんの言葉はどこから眺めても完璧な結晶のようで、あまりの美しさに恐ろしくなる。どれだけ細かい糸で織り上げたら、これほどしなやかな手触りになるのかな。
菜食主義者』で魂を揺さぶられるほどの衝撃を受け、この方の作品は私にとってとても大切なものになるだろうということが判った。


この本の装丁も素晴らしい。本文の部分が様々な白さの紙で出来ている。真珠のような白、生成りに近い黄みを帯びた白、灰色を薄めたような白……といった具合に。とても繊細な、内容にマッチした心憎い装丁にも感銘を受けた。


すべての、白いものたちの