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天からの使者

かつて、隣接するS市にある美術館に行ったとき、初めて、てんとう虫を間近でしみじみと見た。
美術館の周りには、自然がたくさんあり、美しい池や遊歩道などもあった。作り込みすぎるのではなく、自然のありのままの形をできる限り尊重しながら、それでいて、木の並べ方ひとつ取っても芸術的な表現になっている、そんな空間。池は真っ白な水鳥を数羽浮かべ、細い枝々を逆さまに映していた。枯葉が初冬の風にはらはらと散っていて、とても美しかった。


絵画を鑑賞し終えて、自然の中を少しの間散策したとき、持っていたバッグに小さなてんとう虫がくっついているのに気づいた。
油絵の具をギュッと高密度に凝縮したように真赤で、星の部分は宇宙の裏側を閉じ込めたように真黒だった。自然の中にあるものに、こんなに鮮やかな、調和を拒むほどの強い原色が存在するということに、あらためて目を見張った。滴り落ちるどんな血よりも赤い赤だと感じた。
てんとう虫はいつからそこにいたのだろう。てんとう虫が気に入ったのは、金色の合成皮革で出来た小ぶりのバッグだった。金色と言ってもくすんだシャンパンのような色だったけれど、それが太陽のようで気に入ったのだろうか?


当たり前だけれどてんとう虫には足が生えていて、その細い糸のような足をマリオネットのように動かして、ちょこちょこと歩いた。歩き出したことにびっくりした。精巧に造られた小さなブローチか何かのようで、それが生き物だということを一瞬忘れてしまっていた。
私はバッグにてんとう虫を付けたまま、彼(彼女?)と一緒に遊歩道を歩いた。彼もシャンパン色の太陽の表面を、私と一緒に歩いた。


欧米でのてんとう虫の名前は「神様の虫」「聖母マリアの虫」というような意味なのだそうで、やはり幸運のシンボルなのだという。天が遣わしてくれたサインのように受け取り、その時ばかりは、私はこの世界に守られているのだという温かな心持ちになれたものだった。今の自らの在り方に、それで良いのだよと、小さく囁きかけてくれたような気がした。


数分の散策の後、バックを見ると、いつの間にかてんとう虫は消えていた。すべてが幻だったかのように、跡形もなく。