SITE MÉTÉORIQUE

Dépôt de Météorites

合言葉

独特のユーモアのセンスがあるので有名な、議員のK氏が、体育館に講演をしに来る。女子たちは誰が来るかを知らず、有名な外国の歌手が来るらしいと噂を立てていて、それが誰なのかで会話に花を咲かせていた。
体育館に椅子を持ち込み、並べながら、話に乗って一緒に盛り上がらない私はだんだんと疎外され始めた。午前の体育の授業で、私が下手なせいでバレーボールの模擬試合に負けたことを言葉の端に匂わせて、皆が私を責める空気を醸成していた。


私はK氏が来ることを初めから知っていたし、先程、本人に体育館の外で会った。「山」と言ったら「川」と答える合言葉のように、私は何かの単語をK氏に向かって言った。K氏も、当たり前のように合言葉で返してくれた。


K氏が壇上に現れて、生徒たちはあからさまにがっかりした様子。有名歌手が来ると囁かれていたのだから当然かもしれないけれど、派手に舌打ちをする子もいたり、大変に失礼な反応だった。講演はとても真面目で硬い内容だったので、女子たちは退屈してあくびをしていた。K氏は愛想笑い一つせず、退屈なスーツに退屈なネクタイをして、退屈なトーンで話した。


私はひとり、心の中で、あの合言葉を思い起こしていた。私とK氏は確かに内面で繋がっている。私はみんなの知らない彼のユーモアのセンスも知っているし、みんなは何も知らないで大切なものを見逃して、見逃していることさえ気づかないのだ。
その価値は私だけが知っている、そう思うと、どこか後ろめたいほどの快感が湧き上がった。