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新・閏年

政府から、新しい閏(うるう)年の制度の導入が発表された。官房長官が喋っているのをニュースで見た。いつもと同じ様なトーンで、ごく当然のことのようにさらっと、それは発表された。
来年から始まるというその制度は、通常なら2月29日だけをプラスするのに代えて、一週間をプラスするのだそうだ。正月の7日間を年の頭に追加する。1月7日の次に、また1月1日がやってきて、そのまま一年が経過するという具合。一年に二度お正月を過ごすことができるのだから、めでたい制度だと語っていた。


軽減税率を適応し8%にするものと10%にするものと線引きをしたように、正月関連の行事も、一度目の正月にするものと二度目にするものとに綿密に分類された。年賀状の配達は一度目、除夜の鐘を鳴らすのは二度目、紅白歌合戦の放映は一度目、等々。
すべてに線引きがなされ、その理由もきちんと裏付けがあるということで、専門家が出てきて詳しく説明をした。しかしさっぱり理解できなかった。なぜなら説明が始まるやいなや睡魔に襲われ、それに抗うことが出来なかったから。専門家の言葉には、睡眠薬が仕込まれていたに違いない。


国民はなんだかんだ言っても黙って従うしかない。突然卵が降ってきたとしたら、割れないように受け止めるのが我々にとって最善の行動だ。
日々を生活するのに必死な庶民は、二度お正月が来るからと言って浮かれるようなことはしなかった。一度目の正月はそれとなくスルーして、二度目の正月を本物として扱おうとする空気が、暗黙のうちに国全体に広がっていった。私もそれを肌で感じていた。


実際に一度目の正月がやってきて、年賀状が配達されたが、何となく年の瀬の慌ただしいときに空気を読めずにやってきた親戚のようで、届いた年賀状たちも居場所がなく申し訳なさそうにしている気がした。紅白歌合戦も、二度目のクリスマスの騒ぎにしか思えなかった。多くの家で、年が明けてから二度目の正月が来る前に大掃除をした。
二度目の正月が来ると、テレビでは一週間前にやったばかりの除夜の鐘の放映(本来は二度目だけと決められていたが、混乱の中それを律儀に守る放送局はなかった)や、初日の出の中継などが繰り返され、タレントたちは一週間前と同じ和服を着て、芸人たちは一週間前と同じネタの漫才をしていた。その既視感と言ったら、もはや笑い事ではなかった。一週間のうちに一年が過ぎ、一歳、歳をとってしまったような錯覚に襲われた。


手帳を見ると、驚くべきことが起こっていた。曜日が増えていたのだ。
月月月火水木金土日。月曜日が3回繰り返され、週9日になっていた。日付は、1 8 8 2 3 4 5 6 7。1日の次に8日が二度あって、その次が2日だ。
もしやこれは。世間で囁かれていた問題が実際に起きてしまったのだろうか? 2000年問題というのがかつてあったように、新型閏年に対応しきれないコンピュータシステムが誤作動を起こす危険性が一部で叫ばれていた。政府はそれを完全に黙殺した。


疑念がむくむくと膨れ上がってきた。もしかして、この誤作動もすべて、政府の計画ではないのか?
そうでなければ、土曜か日曜を3回にするべきだ。政府以外のどんな人間がやっても、どんな神様がやっても、この誤作動は週末に起こるはずだ! まさかの月曜日が3回。これはまさしく政府と大企業の陰謀に違いない。今の政権ならやりかねないことだ。考えれば考えるほど、それは真実味を帯びてきた。