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スロットマシンで高得点が出る

気づくと、隣にK君が寝ていた。なぜだかはわからないが、他にも何人かが私の部屋に散らばって寝転がっていた気がする。
夜中に起き上がった彼は、枕元に置いてある私の化粧品の瓶を幾つか倒してしまった。瓶と瓶がぶつかり、冷たく尖った音が響いた。彼は、しまった!というわかりやすい表情をして、瓶を一本ずつ、音を立てないようにそっと元に戻した。私は眠ったふりをして、その様子を薄目を開けて見ていた。わけもなく愛しさが込み上げて、涙が滲むのを感じた。


朝になると、K君には妻と三人の子供がいることがわかった。妻と子供達とともにスーパーマーケットで買い物をする彼の映像が、脳裏に再生されたからだ。それが現実なのか妄想なのかわからなかった。
私はその映像を強く念じることで、ノートパソコンに保存した。他にも、心の中の有象無象を映像として、また言葉として、数限りなく保存していた。そうすることで、ノートパソコンは私の脳細胞のすべてのシナプスを流れるすべてのシグナルを記録した、いわばコピーと化した。


ビビットなピンク色のスニーカーを履いた私は、高校の古びた校舎に入っていった。脇にノートパソコンを抱えている。
教室にたどり着くと、同級生たち、特に男子学生が、心なしか白い目で私を見ているように思えた。それが私に内在する無価値感を強く刺激した。冷ややかな悪意が、目に見えない赤外線のように張り巡らされた空間に感じられた。
パソコンに保存したK君の映像をもし見られてしまったら、身の程を知らない勘違い女として嘲笑されるだろう。恐れに身震いがした。
ふと気づくと、ノートパソコンがない。誰かが持っていって、ネットに拡散してしまったら? 慌てふためいて周囲を探したが、見つからなかった。教室の窓ガラスを通過する陽光が屈折し、私へと差し込む際にもう一度屈折した。その角度に油断した私は、心の裡をすべて白日のもとに晒されてしまった。
私はしばし絶望し、その後で腹をくくった。最悪の場合、四階建ての校舎の窓から身を投げてしまえば良いのだ。


カジノのスロットマシンのようなものをいじりながら、竹中直人に似た男子学生が声を掛けてきた。これ見てみなよ。スロットマシンには回転する部分がたくさんあって、それぞれに細かい数字が表示されていた。独創性とか、芸術性とか、色々な項目ごとに点数が出るようだ。
あんたのパソコンの数値はなかなかだよ、と竹中直人似の彼は言った。何の項目だかは教えてくれなかったけれど、かなりいい得点が出たと言う。私のノートパソコンとスロットマシンをつないでいた太いケーブルを抜きながら、彼はにやっと笑って私を見た。その笑みは、賛辞と受け取っても良いもののような気がした。


何か対価を払ってもらわないとね。彼がそう言うので、私は下駄箱からピンクのスニーカーを持ってきて、これを提供しますから、と言って突き出した。ああ、これを世界に提供するとは見上げたもんだ。みんなが喜ぶだろうね。
そんなにこのスニーカーに価値があるの? 一体この世界の価値基準とは何? でもそんなことはどうでも良かった。私は返してもらったノートパソコンを抱きしめながら、上履きのまま校舎から駆け出していった。もう二度と登校するつもりはなかった。