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ぺしゃんこになった顔の愛おしさ

『カステラ』 パク・ミンギュ著 読了した。
誰にも似ていない、唯一無二の個性的な文章だなと思った。とてもポップでシュールで、リズムのある文体。圧倒的と言えるほど独特の世界観が確立されているところは村上春樹っぽいかなとも思ったけど、またちょっと違うし。


常識の斜め上を行く、ユニークすぎる視点で編み上げられる物語の根底には、現代社会のひずみの中で、生きにくさを抱えざるをえない人々への温かい眼差しが貫かれているように思った。


韓国社会の生きにくさは、日本のそれよりももっと具体的でシビアなものに感じられる。日本は村社会のような、横に引っ張られる生きにくさがあるけれど、韓国のそれは、小説や映画やドラマの中から察するには、縦に押しつぶされるような生きにくさのように感じられる。
押しつぶされてぺしゃんこになった顔を鏡に写し、泣いたり笑ったりしている人々。それでも彼らは冷めきった心を懐きながらも、斜に構えたりふてくされたり、生を否定したりすることは決してない、愛らしい人物ばかり。


読後には、頑なな常識にとらわれていたことが馬鹿馬鹿しくなるような、真新しい角度の視点を植え付けられたような気分と、人間に対する温かい気持ちがどこかから呼び起こされてきて、おはようと言っているような、そんな気分が残った。