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スニーカーを磨き上げる

大きな陸橋を渡った先に、古めかしい石造りの建物がある。私は陸橋の手前でハンドルを握りながら、信号待ちをしていた。何度も時計を見れば時が速く進むというわけでもないのに、ひっきりなしに左手首の時計へと目を落とす。
石造りの立派な建築物は、とある銀行で、私はそこに納めに行く「靴」を運んでいるのだった。


五人組の少年グループの、スニーカーのメンテナンスが私たちの仕事だった。彼らの履くスニーカーは、五人お揃いの白いキャンバススニーカーだったり、黒いヌバック革のスニーカーだったり、敢えて個性的にそれぞれ別の色やデザインのものを選択することもあった。
銀行の建物は非常に荘厳な、歴史を感じさせるもので、南の空に低く昇った太陽が後ろから建物を照らし、まるで後光が射しているようだった。その眩しさがすべての輪郭を滲ませ、かろうじて赤信号の光だけが鮮やかに私の目を刺した。赤の光が青に変わり、私は銀行の建物に車ごと吸い込まれた。


待合室で、運んできたスニーカーの山を下ろし、一つ一つ最終点検をする。白い五足のキャンパススニーカー。そのうち三つは全くサイズが同じだ。けれど履く人の足の形に沿って微妙に変形し、ソールも特徴のある減り方をしていることから、誰のスニーカーかを瞬時に判別することが出来た。綺麗に磨き上げたつもりが、どうしても真っ白な綿素材のスニーカーは汚れが目立ちやすく、細部のシミやこびり着いた泥が取り切れてはいなかった。私は必死に汚れと格闘した。
白いセーターの袖口が、いつの間にか黒く汚れていた。それを見た後輩の職員が、小さく溜息を漏らした。後輩たちはみな若く、ファッションとメイク以外に何の関心も持たないような子達だった。私はてっきり馬鹿にされたのだと思い、心に抱えた盾を持つ手に力を入れた。
袖口の汚れは、職業意識の高さの証明ですよね〜。後輩は呟くようにそう言った。私は思わず彼女の顔を見た。


スニーカーの紐を束ねて、待合室に置かれた、テーブルかと見紛うほど大きいベンチの脚に、その紐の束をくくりつけた。これで、川が氾濫して浸水するようなことがあっても、流されないで済む。
茶筅で丁寧に点てた抹茶のような色のスニーカーが一足あり、それが鮮烈に記憶に残っている。その紐も、ベンチの脚に慎重に絡ませた。抹茶もこれで溶け出さずに済むだろう。
スニーカーを納め終わり、大きなスタンプを押してもらった。これで少年グループが、靴を下ろしにいつ銀行に来ても、大丈夫だ。