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魂の造形

兄はいつも、私に対して、ひどい悪態ばかりついた。
兄の言葉が汚く、ゲスな行動ばかり取るのは、自身の繊細すぎて厄介な内面を持て余しているからだと、私はよく知っていた。鉛筆のように自身を荒く削り、ようやく芯に火を燈すことができる。母や妹は、兄に対してそれほど深い洞察を持っていないように思えた。私は、魂の造形が兄によく似ているのだ。だから、否が応でも見えてしまうものがあった。

兄の声が好きだった。とても美しく響く深い低音で、見た目はやや童顔で丸顔なのに反している。どんなに汚い言葉を吐き捨てても、その声で発せられると、すべては情熱的なバイオリンの旋律のようにさえ捉えることが出来た。激しく身悶えたあとの余熱が、音符となり空中に舞い散って、消える。その後には常に、遣り場のない怒りのような、苛立ちのような、無力感のようなものが引き換えに、私のなかに残された。引き潮の砂浜に残された白い貝殻たちのように。


石畳を歩く兄の靴音が響いている。数百段の長い石段を上り終え、ようやく息を整えた兄は、穏やかに堆積した宵闇のなかに佇んでいた。境内には人の気配はまったくない。
私はそのさまを、仕掛けられた監視カメラを覗いているように、あるいは虚空に瞳だけを派遣したように、俯瞰していた。兄は誰かを待っている。待ち人は来ない。
私の妄想は、一本の映画を監督した。兄はそのラブストーリーの悲劇の主人公。悲恋の相手は、今まさに石段を上って、兄に一歩ずつ近づいてくる。その映画の観客でもある私は、そこでフィルムを止めて、逃げ出してしまいたい。
よく似た造形の魂が、私以上によく似た形はないことを知りながら、他の魂を求めることが、耐えられなかった。音もなく静かに水嵩を増す、氾濫の予感を湛えた心。