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仙境に取り残される

蒼く蒼く沈んだ、神秘の湖の水面に、飛沫が舞っていた。子供たちが数人水遊びをしているプールを、私はぼんやりと眺めている。一般にイメージされる、賑やかで人工的、塩素の匂いがして単一的な色彩のプールとは、対極にあるような気配。幽玄の里とでも名付けたくなる、奥深い趣のあるその世界。


子供の一人が、突然激しく身悶えし、水に沈んでいく。私はその子を救うためにプールの中へ入っていく。プールサイドでは、私のパートナーらしき男性が、横たわる人に聴診器を当てて介抱していた。私は溺れた子供を抱え上げ、彼のもとに戻ろうとした。子供をプールサイドに横たえ、顔を上げると、そこには誰もいなかった。彼も、彼が介抱していた人も、私が救い出した子供も、全員が一瞬にして消えてしまった。仙境に一人、取り残される。


私は彷徨い歩き、仙境の外に出る。そこは一転して、賑やかなアミューズメントパークだった。海のそばで、大きな客船が停まっているのを見上げる。喫水線のあたりに入った、鮮やかな紅色のラインが目に眩しい。海に面したメインストリートで、大勢の人が行き交うなかに、一人立ち尽くしている。
不意に、彼が、お昼にはカレーを買って外で食べようと言っていたのを思い出す。パークの中心にある、派手なデコレーションが施されたウェディングケーキのような建物に入り、食材を売っている店や、レストランや、様々な場所を隈なく探す。すれ違う人にも尋ねてみるけれど、一様に冷笑され、誰も答えてはくれない。その冷ややかな視線は、誰もに共通して、水銀のような鈍い色をしていた。


巨大なアミューズメントパークは二つのエリアに分かれていて、蝶が羽を広げたような形をしていた。二つの羽をつなぐのは狭く暗い地下通路で、パークに入ってくるときにも、その薄暗い通路をくぐり抜けてきたという記憶があった。彼はもう一つのエリアの方に居るのかもしれない。


地下通路への入口がある建物に入る。今にも倒壊しそうな古いビルは、至る所コンクリートにヒビが入っていた。地下には医務室があり、その奥のトイレの横に、通路へのドアがあったと思い出す。青ざめた蛍光灯が明滅する中を、私は地下へと降りて、通路へつながるドアを見つけた。
意気込んでドアを開けると、そこには掃除用具が入っているだけだった。医務室にいた看護師がそれを見ていて、くすくすと笑っている。恥を忍んで、私は看護師に声をかけた。もう一つのエリア(何か洒落た名前がついていたけれど思い出せない)への通路はどこですか? 看護師は全く意味がわからないといった様子でカラカラと笑っている。通路があることを知らないのか、通路などはじめから無いのか。
看護師はお喋りで、世間話を次々に振ってくるけれど、かろうじて意味は理解できるけれどどう返していいかわからない、中途半端に学んだ外国語のようで、一方的な機関銃の連射を身体で受け止めるだけだった。被弾して弱りきった私は、諦めて、もと来た道を戻ろうとした。


振り返ると、そこに、消えたパートナーが立っていた。開口一番、どこに行ってたんだよ! と怒鳴られた。
すっと顔から血が引いていくのを感じた。安心と、怒りと、あらゆる感情が突然、一気に噴射したために、自律神経は悲鳴を上げて昏倒した。怒りたいのは私の方だ、突然消えたのはそっちじゃない! そう言いたかったのだけれど、言葉にならず、ただのわめき声になって喉から溢れた。老朽化した水道管から水道水が噴き出したみたいに。
彼は困った顔をして、どうして良いかわからない様子で、私の手を握った。そのぬくもりを感じると、どっと涙が溢れ、さらに自律神経は迷走した。今度はかっと頭に血が上り、昂ぶった感情を抑えることが出来ず、怪獣が吠えるように、醜く泣きわめいた。