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渡し船

彼は船頭だった。木造の粗末な渡し船で、河の対岸へと客を渡す。はにかんだ笑顔。船を係留するロープを大切そうに束ね、命あるものを扱うかのように、優しい眼差しで見つめる。何気ない所作に、彼だけに固有の光が宿り、さらさらとその美しさが降り積もる音を聞いたような気がした。山並みの向こうで、真っ黒く煤けた空と、熟れすぎた柿のような色の陽光とが、ゴッホの絵画みたいに細やかなマーブル模様を描いて抱き合っていた。昼なのか、夜なのかわからない空間。永遠に続く日蝕


客の一人として渡し船に乗る。河は時を止めたように穏やかで、全く水の流れが感じられない。これは河でなく、湖だったのだろうか。どこまでも弛緩していくような緩やかな時が流れ、振り子が往復するように、船は岸と岸を往復する。対岸へ渡って何かをする予定があったのだろうけれど、催眠にでもかかったように、そんな用事はどうでも良くなり、すっかり忘れてしまった。


船頭の彼に魅せられた私は、彼のそばにへばりついて、ずっと彼の一挙手一投足を見つめている。彼は私を子犬のように慈しんでくれた。河畔で船に乗るとき、彼の他にも別の船頭が一人いたが、その人は一つ一つの挙動が荒々しく、ロープは放り投げるし、野良犬を蹴飛ばすように船を進水させた。その人の船には乗りたくないと思った。彼の船に乗る私は、どれだけ幸せなのだろうかと、悦びを噛みしめる。


客はやがて一人もいなくなり、彼と私は船に並んで座り、両脚を伸ばして互いの爪先を見つめていた。私は深く彼を愛していた。既に、船を漕ぐ必要もなくなっている。私たち二人の想念が、船を自動的に動かし続けることを知っていた。そうして、何億年もの時が流れたような気がした。天蓋から吊られたロープの先で、美しい小船は振り子として揺れ続ける。