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ドアノブが無い

部屋に入ろうとすると、ドアノブが無くなっている。ノブが嵌っていたはずの穴は、茶色い紙製のガムテープで塞がれていた。ガムテープはドアと壁を密封するように何重にも貼られていて、そのしつこいやり方から、父の仕業だとすぐに分かる。

何故こんなことをしたのか、父を問い詰める。日用品を買いだめしたものや様々な道具が仕舞われているその部屋に入れなければ、日々の生活に差し障るというのに、父はいつもの独善的な口調で私を見下すように言う。ドアノブが廊下に出っ張っていて危険だ。これで俺が怪我をしたらどうするんだ。今までドアノブが邪魔だったことなど一度もなく、何の問題もなかったのに、問題のないところに問題を作り出す天才だ。

とにかくガムテープを剥がすように要請する。父はいつもと同じく、俺のやり方に文句をつけるなと怒り出し、嫌ならドアごと外してしまえと言い放った。怒りが張り詰めた神経をプツッとちぎった音がしたような気がした。満潮時に、押し寄せた潮がみるみるうちに陸地を覆い尽くすような感覚。思考は凪いでいて、怖いほどに穏やかだった。私はガムテープを剥がし取り、穢れたものを吐き捨てるように放り投げた。テープの残骸は死んだ蛇のように丸く絡まり合っていた。そしてそのドアを外し、両腕で振り上げると、父を目掛けて何度も何度も振り下ろした。
父はペラペラの紙のように薄くぺしゃんこになって、ひらりと風に舞った。


この夢を母に話すと、父がいかにもやりそうなことだと大爆笑。ぺしゃんこに潰れてしまう以外は現実そのものといった内容。