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ピルグリム・ブラザーズ

玄関のドアを開けると、見慣れない三人組が立っていた。二十歳くらいの若い男性二人と女性一人。彼らは皆、ちょっと不思議な格好をしていた。薄汚い感じの古着を重ね着し、穴の空いたジーンズをはき、顎くらいまでの長さのドレッドヘア風の髪型、そして首に何十本ものチェーンのネックレスをかけていた。大体がウエストの辺りまで届くほどの長さで、ネックレスというよりは、ベルトに使われるような太く大きなチェーンでできている。何十本のチェーンのボリュームが凄くて、ハワイで首にかけるレイを幾つも重ねているみたいだ。

リーダーらしい男性が声をかけてきた。チェーン、ある? 不躾なタメぐちでそう言うと、自分の首にかかっているチェーンの一本を引き出して、私に見せた。彼は色白で中性的な、端正な顔立ちの青年だった。かといって青白い不健康な感じはなく、いかにも若者らしい精気に満ちている。彼の見せたチェーンのネックレスは、くすんで黒みがかった金色で、どう見ても本物のゴールドではなかった。金メッキですら無い、おもちゃのようなものに見えた。
隣に立っていた女性が口を挟んだ。昔バブルの頃に流行ったようなやつじゃないよ、こういうやつだよ。彼女も自分のネックレスを指し示して、私に見せる。昔流行ったギラギラのリアルゴールドではない、このくすんだ金色のネックレスにこそ価値があるらしい。私の知らない新しい金属なのだろうか、という思いが過った。

そういうのは持ってないよ。私はそう答えた。ふーん。そっか。彼らはあっさり納得して、じゃあ、リップ○○はある? と訊いてきた。リップなんとかとは何だろう? 私はそれが何か尋ねてみた。彼らなりに誠意を込めて説明してくれたけれど、彼らだけに通じる若者言葉みたいなものが散りばめられていて、そのひとつひとつが理解出来ない故に、全く意味が通じなかった。過酷な旅の間、唇を保護するために塗るリップクリームのようなものであり、決してリップクリームではない何か別のものを示しているらしかった。

それも持っていないと告げると、同じようなドレッドヘア風の髪型をして、同じようなボロボロの古着に身を包んだ彼らはまたあっさりと納得し、顔を見合わせていた。彼らのその格好は、彼らにとっての正装なのだということを感じた。
じゃあ!とカジュアルな挨拶をして、彼らは隣の家へと向かっていった。礼儀正しくもなく、愛想が良いわけでもなく、それなのに彼らに接したあとには、心に涼しい風が吹き込んだような清浄な感覚が残った。彼らの旅は一種の巡礼のようなものなのだということが、そのとき分かった。