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玉虫色の靴

専門学校のようなところに通いはじめ、初日に緊張しながら学校へ向かう。渋谷と恵比寿の間に学校はあるはずだった。初めて通る大きな交差点を抜け、太い歩道を行き交う人々の中に紛れる。
学校の建物の中、大きなトイレのような場所にいる。プールの更衣室のようでもあり、多くの人が自分の荷物を開いて中身と向き合っている。
私はなぜか靴をなくし、裸足でタイルの上を歩いている。ひやっとした感覚に神経が苛立った。サンダルを買おうと思う。更衣室には、靴屋のように新品の靴が陳列されている。どれもピンと来ず、気に入るものがなくて、迷いあぐねて歩き回るうち、いつのまにか深緑色のエナメルのミュールを履いて、街を歩いていることに気づいた。
足元を見ると、深緑色だったミュールがラズベリーピンクのような色合いに変わりつつある。バイカラーのトルマリンみたいだ。光の角度で色が変化する玉虫色のエナメルなのか、珍しいな、と思う。虫の甲羅のようでもあるその靴は、とても軽やかな足取りで歩く。靴が自ら歩いていて、私はそれに乗っているだけのような気がする。

路地を曲がったところに、昭和の風情漂う食堂が一軒ある。毛筆ででかでかと店名が書かれた看板がかけられている。サッカー選手Hによく似た金髪の男性が、その食堂に入っていくのを目撃する。彼は学校の先輩で、家族らしき人たちとテーブルを囲んで楽しそうに食事していた。声をかけたかったけれどタイミングを逃し、諦める。ガラス越しに、彼らの談笑する声が漏れ聞こえる。どこからか滲み出てくる疎外感。誰のせいにもできない、我儘な心の動き。

その先を曲がると、線路のそばへ出て、駅へと抜けられるはずだと思っていたのに、全く違っていた。急勾配の斜面に、家々が並ぶ。その間を縫うように細い坂道や階段が張り巡らされていて、迷路のよう。完全に道に迷う。辺りが刻々と暗くなってきて、急激な不安に襲われる。夜の帳が下りるなか、階段と坂道は象牙色に浮かび上がって、白骨が散らばったようにも見えた。
すれ違う若い女性に道を尋ねる。駅はこの方向で合っているけれど、入り組んでいるから地元の人でないとわからないと言う。心配なら、もと来た道を戻ったら?と言われる。すでに闇に閉ざされ、引き返すことも難しく、途方に暮れる。