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歯科医のプロフィール

いつもの歯科医院に行くと、担当の先生が変わっていた。初めて見る歯科医は、還暦手前、白髪交じりで、ひどく痩せていた。顔には深い皺が刻まれて、年輪を感じさせる容貌ながら、どことなく頼り甲斐のない感じがした。

歯のチェックを一通り終えて、歯科医は私に手鏡を差し出し、私は自分の歯をそこに映して見る。思ったよりも白く綺麗だったけれど、左右の犬歯が本来の位置より内側に傾いてきていて、不自然な形だった。いつのまにかそうなってきて、気になっていた。
歯科医は、どこか気になるところがありますか?と訊く。私は、犬歯が内側に傾いている件を話す。

歯科医の表情が急に活き活きしてきたように思えた。釣り糸にやっと魚が喰い付いた、そんな感じ。歯科医は急に前のめりに、雪崩打つように話し始めた。声の温度も以前とまるで違う。
こういう治療法があります、ああいう方法も考えられます、お任せいただければあらゆる問題を包括的に解決するソリューションをご提案できます。プレゼンテーションのようになって、私は寝かされたまま、空中に映し出される書類をいくつもいくつも見せられた。

書類の中にこの歯科医のプロフィールもあり、それがとても砕けた内容で、心の中で笑う。歯科医師界のソル・ギョングという異名を取るそうだ。たしかに見た目はちょっと似ているかも。でも映画俳優に自分を喩えるか? 笑いをこらえるのに必死。
隣の診療台から、院長先生(この人が今までの担当医だった)が様子を見ていて、何やら冷やかしの声をかけた。まるでナンパをしている仲間を冷やかしているみたいに。

面白いけど、この先生はだめだな。思惑通り釣られてたまるか。治療を断って帰ろう。そう決めると余計に、必死に空回りしているソル・ギョング氏が可笑しくてたまらなくなる。
どうやって角が立たないように断るかを、頭の裏側であれこれ考えながらも。