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ブルージーな煮豆

夢の中で、こんなドラマを観た。国内の少し古いドラマのテイストだった。
主人公の若い女性が、書店でベストセラーを見繕う。彼女は自分の少々風変わりな個性を封印して、社会に認められる存在になろうと思い詰めている。いま世間で流行っているもの、世間が価値あるとするものが彼女にとっての価値あるものだった。
売れている本を手に取り、ページをめくる。チャート式の図解のようなページばかりで、本文はわずか、キャッチーな見出し文が踊り、一般的な読者層にどこまでも媚びた作りだった。

直情的な彼女は突然、何もかもが馬鹿馬鹿しくなる。本は世間に媚び、自分も世間に媚びている。世間は一体何に媚びるのか。世間も世間に媚びているだけじゃないか、という理解が、彼女の張り詰めた糸をぷつりと切った。

彼女は何冊か買うつもりで抱えていた本を、元あった場所に戻しに走る。途中で、背の高い紳士とぶつかる。紳士は一目でそれとわかるような超一流のスーツを着込み、サイボーグのような肉体をその中に隠していた。尖った厳つい造作に、いかにも柔和な笑みを浮かべた。
彼女は、この紳士が世界の主なのだと直観する。この書店チェーンのオーナーかもしれないし、今抱えている本の出版社社長かもしれない。表向きの肩書きはどうでもよかった。私は世界の「主」に今睨まれ、目をつけられた。彼女の胸は早鐘のように鳴った。

慌てて床に落とした本を回収すると、紳士に会釈してまた彼女は走り出す。振り返ることはできない。本が並んでいた場所にたどり着き、平積みの一番上に戻す。その時、抱えていたお菓子の包みも一緒にぶちまけてしまう。透明のケースに入ったケーキや、和菓子、いろいろな種類があった。
それを隣で見ていた、同年代の若い女性客。お菓子を拾い上げるのを手伝ってやる。同じものが二つずつあるんですね。女性客が話しかけてくる。そうなんです、姉が出張で家にいないのをうっかり忘れていて、姉の分も買ってしまったんです。その何気ない会話が、真の友情が芽生えるきっかけとなる出来事であるのは明白だった。

二人はそれらのケーキを一緒に食べた。暗がりに並んでいるベンチに腰掛け、テーブルの上に透明なケースに入ったお菓子が並ぶ。どれも形が崩れ、和菓子の上に振りかけられたきな粉がケースの中に散らばっていた。電燈の冷たい明かりがそれを照らしている。月はなく、とても暗い夜だった。

そのシーンを待っていたように、テーマの音楽が流れる。ブルージーでものすごくかっこいい曲。その歌詞は、水を鍋に入れ火にかける、豆を煮る、煮続けて豆は煮豆になる──そんな内容。曲調と歌詞のあまりの不一致に、思わず失笑する。でもその曲はまちがいなくかっこいいのだ。
夢の中ではメロディも歌詞の内容も完全だったのに、目覚めると殆ど忘れていた。