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靴の片方

駅前の暗い夜道を歩く。霧雨が降っていて視界が悪く、ねっとりとした湿気が世界中をゼリーの中に閉じ込めたかのよう。変則的な形の横断歩道。アスファルトの上の白線が辛うじて視認できる。渡ろうとしてそれが横断歩道でなかったことに気づく。信号が変わって車両が次々に雪崩込んできた。私は中洲に一人取り残される。混雑した道で、ブレーキランプの赤い色が整列して滲んでいる。長時間露出した写真のように、赤い光は時間とともに赤い線となり、意識の上に傷をつけていく。

私は靴を探していた。こんな雨の日に履くためにぴったりの靴があったはずだ。手元にあったのは、黒い合成繊維でできた軽量なバレーシューズ。これでは役に立たない。小さく折りたたんで胸のポケットにしまった。バレーシューズは申し訳なさそうに、平たくなってすっぽりとそこに収まった。
他に、ボルドー色のアンクルブーツがある。(現実に先月新調したものに似ていた) 仕方ないのでとりあえずそれを履いた。
雨の日に足を守ってくれる、頑丈な作りの黒いブーツがあったはず。なのに、何故かそれが片足だけ見当たらない。もう片方はどこにあるのか。記憶を手繰り、体育館の更衣室にそれを探しに行く。

いくつかの体育館が連なっており、プールのある体育館の奥がスケートリンクのある体育館だということは知っていた。当てずっぽうに入っていった建物にはプールがあり、照明が落とされていて真っ暗だった。
静まり返る水面から、闇を切り裂くように、人が飛び出してきた。地獄から湧き出した黒い泉のように見えた。水着を着た超肥満体の女性だった。人懐こいそのおばさんは、プールに浮いたまま堰を切ったように話し出し、隣のスケートリンクの更衣室に探している靴の片方があるだろうことを親切に教えてくれた。しかし、すでに鉄格子のシャッターが下ろされ、入り込むのは不可能だということも。 

駅前の道は雨に濡れ、つるつると滑る。動く歩道が逆走しているみたいに、いくら歩けども先に進まない気がする。周りの人々は談笑しながら楽しそうに、事もなげに駅のコンコースに吸い込まれていくのに、私一人が引き攣った顔で必死に足掻いている。私だけが別の平行世界に閉じ込められているよう。駅の入口は傾斜が強く、とてもそれを上りきることはできなさそうに思えた。膝にもう力が入らない。息が上がり、荒い呼吸に嘆息は掻き消された。

あの靴のもう片方があれば、もっと自然に歩くことができるのだろうか。それとも全く何の関係もなく、どんな靴を履こうと結果は同じなのだろうか。それは考えても判ることではなかった。