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目に見えない爆弾

数分後に、原子爆弾が落ちることがわかっていた。
私たちはできるだけ頑丈なビルに駆け込んで、じっと息を潜める。眼の潰れるような閃光、耳をつんざく轟音、そういったものを想像していたけれど、具体的な光や音は、何も検知されなかった。目に映る世界は何の変化も起きたように見えない、しかし現実に原子爆弾は落とされ、私たちの世界の何らかのシステムが崩壊したことは確かだった。なぜそうなのかはわからないけれど、そう確信している。

人々は誰もが戸惑い、おろおろと慌てふためきながら、周りの人間がどう出るかを横目で観察している。皆が自分の行く末を、自分の責任で判断しなければならない。なのにその責任は重すぎるので、誰もが誰もに寄りかかっている。
世界は白く、光に満ちていたけれど、どこかが不自然で人工的な光に感じられる。その感覚には理由がない。眩しくて、眼底に微かな痺れを感じる。

私は、友人三人と行動を共にしている。そのうち二人が、ビルの外の様子を恐る恐る見て、このビルから出た方がいいと言う。もう一人は足が竦んで、今の場所から動けそうにないと言う。どうするか迷う。そうこうしているうちに二人は、私たちを置いてビルの外へと駆け出していった。

外の広場では、自治体の職員だろうか、人々の混乱を鎮め、秩序を取り戻そうとするスタッフがあれこれと指示を出している。人々は整列させられ、隊列を組んでどこかへと連れて行かれる。
先に出ていった二人は、既にその隊列に飲み込まれた。私と臆病な友人も、顔を見合わせると全力で駆け出す。なんとか列の最後尾に間に合うが、スタッフの機械的な声が響く。列は二列で!偶数人しか受け入れません!
最後尾の隊列が乱れていたので、偶数か奇数か一見してわからない。はみ出してしまったら、私か彼女のどちらかは置いて行かれる。恐怖に震えたけれど、とにかくついて行ってしまえば、隊列の一員であることは既成事実化され、なんとかなるだろう。その時ばかりは妙に小狡くなって、悪事をひた隠しにするかのような澄ました顔で、隊列について行った。

そして、澄ました顔のまま、私たちは悪事を働くことになった。この隊列に含まれた人々は、擦れ違う誰かからすった財布を、次々にリレーしていくという仕事をさせられることになった。一人が財布をすると、別の隊員に投げる。その隊員はまた別の隊員に投げる。センターからショートを中継してキャッチャーが受け取るような格好。財布は豪速球となり空を飛ぶ。

この隊列について行って良かったのかどうか、今となっては何もわからない。私たちは考えるという機能を失い、善悪の概念からも完全に自由になった。財布を投げるのがただ楽しくて、どこまでも純粋な歓びに溶けていく。