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シュールな自虐ネタ

『ほえる犬は噛まない』ポン・ジュノ監督の長編デビュー作。
ポン・ジュノ監督は初期の作品が好きかも。『殺人の追憶』もとても好みだったし、最近の、評価の高い『パラサイト〜半地下の家族』とかよりむしろ良いんじゃない?

このデビュー作も、細かいエピソードを上手にパズルのように組み合わせていく感覚が、凄く生きていると感じた。なんとなくシュールで、得体の知れない感じが上手く醸し出されて、ちょっと残酷なシーンなどあるのだけれど、なぜかその残酷さが上手に変換されてしまって、シリアスにならずにスルッとすり抜けて逃げてしまう。とはいえ、犬を殺すシーンなどは不快で目を逸らしたくなり、コミカルな映画だとは感じられなかったけれども。

ボイラーキムさんの怪談話とか、奥さんが胡桃ばっかり食べるところとか、トイレットペーパーを転がしてコンビニまでの距離を測ろうとするシーンとか、カラオケで歌ってる歌が「フランダースの犬」のテーマだったりするところとか、列挙しきれないけれど、細かいところがツボすぎてもう大好き。

犬の肉を食べるという文化があり、それを野蛮だとか否定するつもりはないけれども、そのような文化的な背景や、賄賂で世渡りしなければ上に行けないという社会構造、そういった韓国に根ざした悪癖と言っていいような部分への「自虐」の意識が、根底に流れている気がした。なので、この映画の造り手側が、誰に非難されるより前に、自分で自分に突っ込んでいる感じがして、不毛な内容に対しても哀れを感じさせる気がした。それが醸し出される不思議な空気感に、さらなる味わいを加味している。

ストレスのはけ口に犬を殺し、教授に袖の下を渡し、罪の告白をするも全く気づいてもらえず……。そうやって手に入れた念願の教授職も、空虚なものとなるのは当然のこと。その虚しさを、彼はこの先どうやって紛らわしていくのだろう。もう犬は殺せないし。

ペ・ドゥナの仏頂面が最高にキュートで、この女優さんだから成り立っている映画なんじゃないかなぁとしみじみ思った。他の配役も端役に至るまで、すべて個性が際立っていて素晴らしかった。