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手のひらに隠した貝殻

彼は、とても女性的な男性だった。見た目も、心の中身も、誰よりも繊細で、艷やかな絹のように傷つきやすかった。彼自身、それをコンプレックスに感じている。彼はそれを語ったわけではなかったけれど、私には手に取るように理解できた。気づいているだろうけど、あなたが恥じていること、それはあなたの魅力でしかない。そう伝えると、彼は目を潤ませ、遠くを見るふりをした。

彼の心の傷は、とてもわかりやすく、誰の目にも明らかなように思えた。わざわざ私が言葉にして伝える意味はないように思えた。余計なことを言ったら、気分を害してしまうかも知れない。それでもなぜか、彼に伝えなければいけないのだということを知っていた。私には当然のように苦もなく見えてしまった彼の水底を、率直に照らし出し理解する人は今まで一人もいなかったのだということを、彼の横顔から悟った。

学食のようなフードコートのような、殺風景で猥雑な広場に、喧騒が反響している。幾重にも響き合う耳鳴りのような雑音の中で、私と彼の間に佇む沈黙が輝いている。
大勢の見ず知らずの人々が行き交う中、私達だけ時が止まったように感じている。停止した時を彼と共有していることを、とても幸せに感じる。大切な貝殻を手のひらに転がすように、この沈黙を味わい、潮騒に耳を澄ませた。