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隕石の堆積場

ギュッとしてくれる椅子

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』 Netflixにて視聴。

「上から読んでも下から読んでもウ・ヨンウ。キツツキ・トマト・スイス・子猫・南…」
自己紹介の際に必ずこの定型句をぶっ込んできては相手を凍りつかせる彼女は、韓国初の自閉症弁護士。あらゆる法律を一言一句違わず暗記し、司法試験をほぼ満点で通過したにもかかわらず、職場のビルの入口にある回転ドアをどう通り抜けたらいいのかわからない。

歩き方から細かな仕草に至るまで、丁寧に作り込まれた役作りが最高で、どうしようもなく可愛らしい。ゆるあにまるとか、すみっコぐらしとか、そういう癒やし系の動物キャラクターみたいな愛らしさ。特徴ありすぎるドアノックから、指折り数を数えて呼吸を整えてから入室する仕草が、本当に可愛くて大好き。

裁判の内容は、シビアな現代社会の問題を映し出しながら、なんともハートウォーミングな着地で、重苦しさがまったくない。ひらめいた瞬間風が吹き、大好きなクジラが跳ねるイメージが差し挟まれるのもお決まりで、来た来たー!となって楽しい。
ピントがずれていて常識ハズレのぶっ飛んだセリフを真顔で吐いちゃう彼女だけれど、裏表なく、あくまで自分自身でいることしかできないのは、決して障害でなく、それは魅力でしかない、と感じられてくる。
イ・ジュノはウ・ヨンウが好きである。事実ですか? 証人尋問のような愛のセリフに笑う。

韓国ドラマでいつも思うことだけれど、脇役の人たちがみな魅力的。いくつか箇条書きで書き出せるような「キャラ」設定にとどまらず、それぞれに意味深い人生を背負った「人間」像を描き出すことがとてもうまいと思う。
ヨンウを陥れようとする同期のライバル、腹黒策士くんさえもとても愛おしく思えてくる。観ている人はみんなそうだろうと思う。相手の弱点を探し、陥穽を掘ることで勝つという司法の世界で、そして弱肉強食の世の中で、生き残るための方法論なんだとよく理解できる。

 

自閉症の人は予期しなかったトラブルに非常に弱く、依頼人の交通事故を目の当たりにしたヨンウも、不安がコントロールできなくなりパニック状態に陥る。背中からギュッとヨンウを抱きしめて落ち着かせようとするジュノ。もっと強くと要求するヨンウ。体をギュッと締め付けることで、不安が落ち着き平常心を取り戻せるのだそうで、そのために体を包み込み締め付ける専用の『抱擁椅子』があるのだとか。
「その椅子は韓国でも買えますか?」と尋ねるヨンウ。「ウ弁護士には必要ないです。僕がその椅子になるので」と答えるジュノ。
様々なドラマを観てきたけど、自分史上最高にキュンとしたシーンだった。キュン爆死。もう木端微塵。
ギュッとしてくれる「椅子」、私もほしい…!

ヨンウみたいな明確な障害があるわけではないけれど、あらゆることに過敏で、精神がコントロールしづらく、安定を失いやすいのは全く私も同じで、ものすごく共感できる部分が多い。
良かれと思ってしたことで、周りを困らせてしまったり、シラケさせてしまったり、気まずい空気になったりすることが、どれだけあったでしょうか。私にとっては当たり前のことが、他の人にとってはあり得ないことだったり、びっくりすることだったり、笑い出してしまうようなことだったことが、どれだけあったでしょうか。ヨンウほどわかり易くなくても、その気まずさの本質は同じだもの。

オープニングのテーマ音楽もとっても良い! シンプルなメロディーで単調とも言えるような感じなのだけど、同じことの繰り返しを好み、複雑な駆け引きを知らないド直球な人柄そのものを表しているようで、ぴったり彼女に合っている。書類がちょっと曲がっていても真っ直ぐにしなければ気がすまない彼女が、音符をかわいく並べ直したみたい。
オープニング映像のクジラさんの形をした雲など、仏映画『アメリ』を彷彿とさせるところも。確かに同じ系統のかわいさがあるかな。

観終わってしまって、完全にロス状態。ロス加減も史上最高かも。続編に大いに期待。

 

© 2019 Hibiki Suzuka