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妖怪人間

高校のとき、ちょっと変わった男子がクラスにいた。
当時はそうは思っていなかったけれど、今思えば、トランスジェンダーっぽい感じ。男子にも女子にも誰彼ともなく話しかけ、どちらにも同性に接するように接していた。

圧倒的な圧で迫ってきて、弾丸のシャワーのように話しかけてくるので、変な奴……とは思った。口数の少ない私にとっては相手が話しまくってくれる方が楽だし、彼と話すのはそんなに嫌ではなかった。
私から見ると、他のクラスメイトたちも、彼のペースに巻き込まれてついつい相手をしてしまうという感じには見えたけれど、誰もそんなに嫌がっているようには見えなかった。

通っていた高校は、男子のほうが女子の3倍程度いて、同じクラスに一年いても話したこともない男子が大部分という、ちょっと変な校風だった。女の子同士は流石に話したことがないなんてことはないけれど、本当に男子はまったく接点がなく、顔と名前が一致してない人さえいたかもしれない。
そんな距離感の中でだからなお、男子が女子に同性のように馴れ馴れしく話しかけるというのは普通ではないことだった。

 

ある時、女子だけでいるときに彼のことが話題に上り、「鈴鹿さんはすごいね、アイツと普通に話してるもん」と、皮肉とも取れる言葉を投げかけられて、びっくりした。
その時、彼が「妖怪ベム」と陰で呼ばれていて、(ベムと彼の名字の響きが近かったので、それに掛けてもいた)かなり疎ましく思われていたということに、初めて気がついた。私からしたら、みんな普通に彼と話してるじゃん!と思ったのだけれど、みんなは普通に話していたのではなかったと知り、あまりに驚いて言葉を失ってしまった。

私が尋常でなく鈍くて、空気が読めなかっただけなのか。彼も空気を読めず、嫌われているのに気づかず話しかけていたのか、それとも嫌われていると分かっていても、お構いなしに攻め込んでいたのか、色々なことが一気にわからなくなった。

その後も、ベムは馴れ馴れしく話しかけてきて、下の名前で呼び捨てにしてみたり、私にどのヘアスタイルが似合うとか似合わないとか勝手に評してみたり、ありえない距離感で接してくることが続いていた。自分のテリトリーに他人がグイグイ入ってくることが大嫌いな私なのに、ベムは関しては、違和感を感じない。もちろん彼に特別な思いなんて持っていない(!)し、これはどういうことだろうと、自分でも不思議だった。

むしろ、ベムに普通に接しているように見えたのに、実は陰口を叩いていた女子たち。こちらのほうが恐ろしくなって、それまでも上手に接することができていなかったのが、さらに輪をかけて苦手に感じるようになった。

 

こんなことを書いても、自分がどれだけ社会性に欠けているかを暴露しているようなものだけど。もしかして私は発達障害の、自閉症スペクトラム障害のグレーゾーンなのでは?と考えてみたりもした。

私くらいの程度では、医師に相談しても発達障害とは診断してはもらえないだろう。でもたしかに、特有の生きづらさを抱えてずっと生きてきたと言える。ベムもADHDっぽいところがあったように思える。落ち着きなく多動性だった。
そういう「普通」からややはみ出した点で、どこか共感することができたので、私はベムに対し嫌悪感を感じず、特別な親しみも感じなかったけれど、それなりに仲良くできたんじゃないかと思う。

自分が病気であるとか、障害であるとか考えることで、それに同化する力が働き、絡め取られるように、より症状がひどくなるような気もする。だから今後、自分がそうだとは見做さないようにしよう。何の得もないから……とも考えた。

病気だから仕方ないとまるごと受け入れれば気持ちは楽になる。でも病気のせいにして逃げている気もする。こんなの病気でもなんでもないと突っぱねて生きれば、自分を十分に理解せず無理をさせることになりうる。どちらがいいのか、よくわからなくなった。病気でも障害でもなんでもなく、ただの特性なんだと思えばそれでいいのか?

ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士』を見たことがきっかけで、ここ最近そんな事を考えて、ベムのこともその流れで思い出した。彼は今、どうしているかな。

自分のこと、これでいいと思えるようになってきたから、普通からはみ出ている自分が大好きだから、できないことはできないままでいいと思える。人と違っている部分を大切にできる。
否定して陰口を叩くなら、その人たちのほうが歪んでいるんだ。
相変わらず、私は変わった人が大好きだ。