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オレンジ色の髪の天使

その女性は、熟れたオレンジのような色の豊かな髪を腰のあたりまで垂らし、サイドの髪を一部だけ三編みにしていた。何故だかその若い女性が、自分を守護する役目の天使だということが判っていた。

天使は、私を様々な場所へ連れ回した。家具売り場のような場所で、大変高級そうなテーブルセットが置かれていて、そこへ腰掛けるように言う。天使が合図すると、黒髪の幼い少女がいそいそとやってきて、私に恭しく一礼した。少女が、美しく磨き抜かれたデコラティプなティーカップに、琥珀色の液体を注ぎ入れる。それは素晴らしすぎて容易く口にしてはならない、価値がありすぎて飲んでしまったらもう後戻りのできない液体であることが直感でき、私はとても怖くなった。

オレンジの髪の天使は、瞬時に私の心を察知し、すぐに席を立つよう促した。広々とした空間にたくさんのソファやダイニングテーブルなどが並んでいる。彼と暮らすとしたら、どんな家具がふさわしいと思うか、考えておいた方がいいと天使は言う。私は、その人がいるだけでいい、あとは何も要らないから、家具だなんて考えたこともなかったと告白する。天使はその答えを予期していたように訳知り顔で微笑む。

次に連れて行かれた場所には、占い師の老婆がいた。中東系の顔立ちで、黒く縮れた髪が顔を覆っており、強い眼光だけがその隙間から漏れていた。太った体を、黒とワイン色を基調とした民族衣装に包んでいる。両手の全ての指に、大きな指輪がギラギラと光っていた。
老婆は、私を見るなり「三人とも良い人すぎるから…」と言った。三人とは誰のことかわからなかった。彼は既婚者なので、彼と彼の奥さん、そして私のことだろうか? そんな考えが過ぎった途端、彼女は鼻で笑った。「馬鹿だね。あんたと彼と、あんたから生まれる子供のことだろうが」と、自分自身に向けて呟くように占い師は言った。

深い森のなか、緑陰に佇むような白く瀟洒な洋館があり、そのなかに生まれたばかりの子供を抱いた私が居る。そんなイメージが一瞬意識に折り挟まれる。そんな事がありえるだろうかと考えた瞬間、私はどこまでも鈍い灰色が続くコンクリートの道路の上にいた。オレンジ色の天使は私の前に立っている。彼女の後ろ髪を見つめながら、私を憐れむような顔をしているのではないかと想像したけれど、振り返った彼女は、不安や悲しみとは何かを全く知らないかのような、完璧で、単調にさえ思える、ケロッとした微笑みを返した。