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Dépôt de Météorites

無に充ちる

すでに卒業したはずの高校に、また通っている。カレンダーを見ると11月で、まだ卒業には少しある。あと何日我慢すればここから自由になるだろうかと、数えることだけが生きがいとなっている。この状態を、終わりにできるのだと突然気づく。

この現実は自分の描いているただの幻で、自分の意志でどうにでも形作ることができるのだと、閃きが降りてくる。粘土を捏ねるようにして現実を塑造する。きらきらと瞬くような天啓にも似た直感。
それならば、いますぐに通うのを終わりにしてしまおうと思う。親に電話一本かけてもらって今すぐ卒業しますと伝えてもらおう、いやそれすら必要ない、自分で決めて自分で電話すればいいだけだ。そんなにも “お手軽” なことだったなんて!

すぐにでもやめられることに自分からしがみつき、ここから出られないと嘆いていた。夢の中でも夢を見て、繰り返し繰り返し、無限に増殖する悪夢の中で、幾度となく高校に通わなくてはならなかった。それなのに。
外界の全ては幻で、何もかもは本当には存在しない。突然具体性を帯びて感じられる。
途端に、世界が白く充ちて、その直後に暗転した。

世界は無に充ちていた。他者はひとりも存在せず、あらゆる過去の記憶も、すべて虚実だっただけでなく、そもそも何ひとつ存在していなかった。突風に霧が搔き消されるように、視界のすべてが消えた。突如として、絶対的な闇のなかに閉じ込められた。そこには光のかけらもない。恐怖に叫びを上げた。自分の叫ぶ声で目覚めた。

刑務所のエレベーター

大学の建物の中、エレベーターに乗り込んだ。私は友人Aと一緒だった。他愛もないお喋りをしながら、混み合ったエレベーターに乗り込むと、重量オーバー寸前だった。すでに乗っていた学生たちの中に、見知った顔を見つける。元アイドルグループのKに似たその男性。彼は私達を見て、微笑みで答えた。人懐こいその表情は、なぜだか一抹の毒をはらんで見えた。
彼は先日、活動中に逮捕されたらしいと噂されていたけれど、無事だったみたいだ。でも目をつけられているのは確かなことだろうし、親しくすることで巻き込まれかねない。一瞬のうちに考えを巡らし、私の笑顔はぎこちなかった。

私と友人は、Kを残し、先にエレベーターを降りた。その階には、なぜかエアウィーブというマットレスに似た巨大な物体が置かれていた。数メートルもある巨大なエアウィーブは大きくねじれていて、ガウディの建築のような不思議な曲線を描いている。その斜めの曲線をよじ登らなければ先に進めない。友人Aはするすると器用によじ登った。私はあとに続いたけれど、足はつるつる滑るし、どうやったらこの斜めの壁をよじ登れるのか見当もつかない。Aが見かねて手を差し伸べてくれている。私は必死に冷静を取り繕い、一度作り笑いをしてから、もう一度壁を登る。

どうやったか記憶に無いけれど、私はそれを登り切ることができたらしい。反対側へ下っていくと、そこは幼児のための教室のようなところだった。真新しい本の醸す青い匂いが漂う。北欧から来た金髪の女性が、幼い女の子に絵本を読み聞かせている。
それを尻目に通り過ぎようとするとき、見るからに怪しげな人物に呼び止められる。能面のような顔をした、黒尽くめのスーツを着た人物は、どう見ても秘密警察か何かの手先だ。生命のパルスが全く感じられない。
私は髪の毛を掴まれ、長い髪を束ねられて、その髪を壁に打ち付けられた。頭より高い位置に釘か何かで固定されて、身動きが取れなくなった。友人Aの姿が見えない。彼女も捕まってしまったのだろうか。窓の外に設置されているデジタル時計が見える。5時何十分何十秒と表示されている。なぜか光が滲んで、5の数字が8にも見えた。その曖昧さをぼんやり見ていることしかできない。

駐車場の管理人らしき人が寄って来た。そのおじさんはいかにも人の良さそうな笑顔で、私の髪を壁から外してくれた。あんたは疑いが晴れたよ。よかったねえ。私の鞄を手渡しながらおじさんは言う。鞄の中に疑わしいものは見つからなかったから解放されたんだよ。
Aがどうなったか知らないか、訊いてみた。おじさんは表情を曇らせた。もうひとりの子は、鞄の中から書類が見つかったよ。危険分子だと見なされるだろうねえ。反政府活動の動かぬ証拠が出ては、可哀想だけど仕方がないわな。
彼女の真剣な眼差しや、凛とした佇まい、軽い身のこなしを思い返すと、もしかして本当にそうだったのだろうかという思いが過る。でもそんなはずはない、誰かにはめられたのでは? その危険な書類が私の鞄から出てこなくてよかったと、一瞬考えたあとで、それを恥じた。

大学の建物は刑務所のようなものに変わっていた。おじさんは建物の外まで私を見送ってくれた。おじさんは、彼の部下の、口のきけない若い男の子に私を送ってやるようにと指示を出したが、私はそれを丁重に断った。大丈夫、ひとりで帰れます。

刑務所の周りには、高い鉄格子が張り巡らされていた。鉄格子の足元にも、雑草が育ち、可愛らしい黄色い野花が咲いていた。私は草を踏みしめながら帰路についた。空はいつものように青く、透き通っていた。

ビッグクランチ

宇宙は刻々と広がり続けていて 
どんな終焉を迎えるのかという疑問には 大まかに2つの説があるそう

拡散されて 限りなく薄まり 限りなく無に近づいていったきりになるより
膨張し収縮しを繰り返し 宇宙が呼吸するという方が 
直感的に真実に近い気がする
ただなんとなく
全てに始まりも終わりもなく巡り続けているような気がする

永遠の成長

経済成長って一体何だろう
好景気になれば 給料も上がるけど物価も上がる
だから豊かになったつもりでも それほどたくさん買えるようになるわけでもない
不景気になれば 給料も下がるけど物価も下がる
だから貧しくなった気がしても それほどモノが買えなくなるわけでもないのでは
一個人の生活を基準にすれば
収入と支出のバランスが取れていればそれでいい話

経済が常に成長している必要なんて無いんじゃない?
どんなにデフレでも不況でも 必要不可欠なものは買う
買わなくなるのは殆どの場合 本当に必要なものではない

儲けるために たくさん作ってたくさん売って
狂ったように乱獲し 資源を使い果たし
今までの私達が消費のし過ぎだったのでは
驕慢であり過ぎたのでは

限りなく貧しくなってゼロになってしまうのでなければ
人口が減少する局面では その分の経済の縮小がある方が当然なのでは

縮小して困るのは投資家たち 株価が下がったら自分の財産が減るのだから
永遠に増えてもらわないと嫌だから なんとしても経済を成長させようとする
借金をしてまで投機に走る
その欲のためだけに世界が動かされている

永遠の増加なんてあり得るのだろうか
まるで蜃気楼のよう
そのほうが不自然な気がして

問題なのは富の過度の集中
正しく分配されるならそれだけで 生活が困難なほどの貧困はなくなるはず
抑圧された均一的な分配でなく
個人の自主的な支え合いの精神による分配

株式を中心とした金融システムが衰退 あるいは変容していけば
人間が人間らしく生きられる時代が来るかもしれない
米ドルという基軸通貨の信認の崩壊が引き金になるかもしれない

経済活動と 地球環境と 人間の魂の成長とが調和した世界がそこにあると信じたい
その調和こそが 経済という小さな枠を超えた 全体的な 本物の成長
無知な人間の戯言かもしれないけれど 私はそう思う