SITE MÉTÉORIQUE

Dépôt de Météorites

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

花の形をした椅子

ホテルの部屋に母を残し、私は廊下へと出て、どこかへ向かっている。ホテルの建物は大きく、込み入った造りで、歩いているうちに私はどこへ向かっているのかよくわからなくなった。歩けど歩けど、同じようなところを堂々巡りしている。 ある階のロビーに、マ…

無限の果て

私の身体に 美しい光の粒子が流れ込む頭頂から流れ込み 全身に隈なく流れやがて 身体は光で満ち溢れる破裂する寸前まで 身体は光で飽和している 次第に身体の輪郭が曖昧になっていくのを感じるどこまでが私で どこまでが外界なのか完全な線など 一体どこに引…

仮面の下

芸能人の集まる、演技大賞のようなイベントがあり、私は友人に誘われてその会場へ向かった。友人のコネで、限定のVIP席に座れることになっていた。誘った友人は来れなくなり、私は一人ぼっちで慣れない席に座るのに気後れを感じ、緊張していた。まだ開始まで…

待合室

古い駅舎の待合室のような場所にいる。旧式のストーブが焚かれていて、ガラス窓が白く曇っていた。私はなぜか、裸で毛布にくるまって、壁際のベンチでうずくまっている。待合室には数人の男性がいて、みな私を見て、見ぬふりをしている。新しく入ってきた旅…

未来の私への手紙

旧いサイトに載せている、過去に書いた文章を、一通り読み返してみたりした。自分の書いたものなのに、長い時が経つと完全に境界を超え、既に自分のものではなくなっていて、誰かの書いた文章と全く同じ視線で見ることができる。エゴが手を伸ばしても届かな…

マルーンの樹

マルーンは、父と二人で暮らしていた。人里離れた森の、丸木造りの小さな家。暖炉の前で、父はマルーンの長い髪を編んでいる。パチパチと薪が燃える音。温かい橙色の濃淡が、二人の頬に揺れている。まだ幼い彼女の髪はとても豊かで、腰よりも長く、深みのあ…

カーキ色のミリタリージャケット

犯人は足音を忍ばせて、自宅マンションへと近づく。海草がなびくようにするりと身を翻し、ドアの隙間に吸い込まれた。正確には彼は犯人ではない。犯人だと誤解されているだけだ。リビングには蒼く月光が差し込み、光は液体のように廊下まで溢れ出していた。…

自由という刑罰

脚本家Mが、高校の国語教師だった。彼の出した課題は、彼自身の書いた脚本を参考に、それに続けて小説なり脚本なりを書いてくることだった。一冊の分厚いノートが手渡された。ノートのはじめの数ページには、彼の脚本の登場人物が写真入りで紹介されている…

土曜日に塀を立てる

女優のHと私は、二人で歓談していた。たわいもない話ばかりだけれど、Hは親しみやすく、驕ったところの全くない人だったので、好感が持てた。彼女にとって日本語は外国語であるのに、それを気づかせないほど流暢に話した。いつの間にそれほど上手に話せる…

自己否定という傲慢

私には十分な価値がない私はそれにふさわしくないそう思っていたのは 私の「傲慢さ」だった 勝手に自分を裁いて判断するのは勝手に他人を裁いて判断するのと同じく 傲慢なこと 謙遜も自己否定も 同じこと

美男と醜女

『亡き王女のためのパヴァーヌ』 パク・ミンギュ著 読了した。 かつて私が接したことのあるあらゆる作品で、人間の容貌の「美醜」という価値観は深く掘り下げられることなく、美しい女性というものは美しさという一点において、単純に価値があるものとされて…

覚醒夢

朝 目が醒めると また一日が始まるまた今日も 夢の続きが始まる私たちは 目を開けているときにこそ 夢を見ているのだ 夢を見ていながら それが夢だと気づいている状態を覚醒夢という人生も同じでそれがながい夢だと 常に気づいていればこそ覚醒して ほんもの…

仙境に取り残される

蒼く蒼く沈んだ、神秘の湖の水面に、飛沫が舞っていた。子供たちが数人水遊びをしているプールを、私はぼんやりと眺めている。一般にイメージされる、賑やかで人工的、塩素の匂いがして単一的な色彩のプールとは、対極にあるような気配。幽玄の里とでも名付…

まぼろしの残り香

薔薇の香る季節が、いちばん好き。萌える新緑がその息吹を香らせ、目に見えない微細なエネルギーの粒子が辺り一面に舞っている。胸いっぱいに吸い込めば、細胞の内側から芳しい葉緑素と薔薇色のエキスに染められてゆくよう。 薔薇の香料は現代のモダン・ロー…

記憶という幻影

『殺人者の記憶法 新しい記憶』 ソル・ギョング主演、2017年の韓国映画を観た。 一筋縄ではいかない、センセーショナルな内容。「殺人者の記憶法」と「殺人者の記憶法 新しい記憶」という編集違いの二種類の作品があり、前者は一般向け、後者はコアな映画好…

恐れを買い占める

物資が足りなくなるのを恐れ、買い占めに走る。足りなくなって不自由するのは嫌だから、あたりまえの心理。市場に物が減ってしまうから、余計に不安になり、必要ないものまで買い込んだりする。 それと同様のことを、私達は、今までもずっとし続けてきたよう…

家族が無くなる日

子供の頃から、自分の苗字が嫌いで仕方なかった。なぜだか理由がわからなかったけれど、あとになって大体のことがわかった。 祖父は婿養子でこの家に入った。妻に先立たれた後、内縁の妻だったのが私の祖母。父はその間に生まれた。だから、父と私には全くこ…

星へ梯子をかける

『グレート・ギャツビー』 スコット・フィッツジェラルド著 村上春樹訳 読了した。まだ十代の頃、古典的な名作と言われるものは片っ端から読んでみようとしていたその頃読んだ中の一冊に、この小説もあった。翻訳文学ならではの、回りくどいような何とも言え…

心を揺さぶるほどの歓び

子供の頃、必死に練習して、逆上がりが初めて出来た時。雑誌の懸賞で、当時好きだった漫画のジクソーパズルが当たった時。探していた、理想の形のバッグを見つけた時。手の込んだ、美味しい料理を食べた時。ああ、幸せだなあ、と人々が言っているようなシチ…

魂は発酵する

人に勝ちたい 負けたくないという思い自分にはもっとできる もっと上昇できる 一廉の人物になれるという希望もっと凄いものが造れる もっと立派なものを生み出せる もっと素晴らしい表現ができる人間はその情熱でたくさんのことを成し遂げてきた 「敷かれた…

嫌ってもいい

自分のことを愛するなら 自分を嫌ってはいけないと考えてしまうそんなことはないとことん自分を嫌って嫌って嫌いまくればいい嫌いという感情も 嫌うという経験も 大事にして尊重するそれが愛するということ 他人のことも嫌ってはいけないと 心を縛ってしまう…

魂の造形

兄はいつも、私に対して、ひどい悪態ばかりついた。兄の言葉が汚く、ゲスな行動ばかり取るのは、自身の繊細すぎて厄介な内面を持て余しているからだと、私はよく知っていた。鉛筆のように自身を荒く削り、ようやく芯に火を燈すことができる。母や妹は、兄に…

存在と孤独

世界には「私」しかいない 他のすべてには私の無意識が映っているだけ この空も私 空気も私 太陽も私 大地も私私は空 私は空気 私は太陽 私は大地 世界には「私」しかいない なのに 「孤独だ」なんて 可笑しいよね

次元を昇る

意識の中で エレペーターに乗って 次元を昇っていくチリン と澄み切った音がして 高い次元に到着した扉が開くと 世界は一面 真白く輝く光に満ちている眩しすぎて目が開けられない……と思いきやこんなに力強い光のなかでも 少しも目が痛くなったりしないことに…

いちばん可哀想な花

日本でいちばん可哀想な花は、桜ではないかな、と思う。開花時期が、卒業とか入学とか年度の始まりと一致しているからと言って、定型化された感傷の象徴のように仕立て上げられ、その儚げな美を、感動ポルノみたいに消費される。例年、酔っ払いが騒音とゴミ…

輪廻を卒える

業を背負って 自意識と格闘し もがくことを糧とするひとかどの仕事のために 価値ある何かを創造するために自らの人生を削り 火を燈す 文学や芸術に昇華させて 素晴らしい作品を生んだとしても自分の苦悩を何度も反芻して分析して それにしがみついて執着して…

無償の愛の形

『母なる証明』 2009年、ポン・ジュノ監督作品を観た。「グエムル」は、私にはあまり良さが理解できなかったので、この監督さんは苦手かも……と思い込んでいた部分があったけれど、それは巨大な間違いだった。 映像における文体のようなものが全面に出てきて…

理想と現実を溶け合わせる

いつまで経っても理想に手が届かないどこまで走っても納得するものを得られない自分の理想が肥大化した 内側の世界は 決して現実にはならない ただの夢想で幻に踊らされていた滑稽な自分の姿を 直視しなければならないの? どこにも逃げ場はなく置かれた場所…

接続を遮断する

現実がつらい あの人がいやだと思うのはいやだと思う心を私が受け入れたからいやだと感じる心のはたらきを 自分のものと認識したから それは私のものじゃない誰かのものでもないただそこにアクセスしたというだけ接続を遮断すればいいだけなのに自分に取り込…