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仮面の下

芸能人の集まる、演技大賞のようなイベントがあり、私は友人に誘われてその会場へ向かった。友人のコネで、限定のVIP席に座れることになっていた。誘った友人は来れなくなり、私は一人ぼっちで慣れない席に座るのに気後れを感じ、緊張していた。
まだ開始まで時間があり、廊下に出てみると、ガヤガヤと騒がしい。スター俳優や有名な監督、スタッフたちが入館してきた。沢山の人が群がり、その間を、海を割いて道を創る神話のように、俳優たちが一筋になって歩いてきた。その一群が通り過ぎる頃、最後尾に俳優のPが来た。彼にも、幾人もの人々がこぞって話しかけ、彼は誰よりも晴れやかに破顔して、それに応じていた。全員と篤く握手を交わし、丁重に頭を下げる間、一度もその完璧な笑顔を崩すことはなかった。


一通り嵐が通り過ぎ、Pは独りになった。その瞬間を私は見逃さなかった。理想を凝縮したようなその笑顔は、0.1秒とかからぬ間に解体され、冷酷と言ってもいいほどの歪んだ素顔がそれに取って代わった。その鮮やかな変化の瞬間を、まばたきをしていたら見逃してしまったに違いない。


私は動揺したけれど、折角の機会を失うのを惜しみ、Pに近づいていって声をかけた。
「憶えていらっしゃらないでしょうが、○○というドラマに端役で出演しました。その節は大変お世話になりました。」そんなドラマに出演などしていないけれど、エキストラの一人ひとりまで憶えてなどいないだろう。彼はまたあの完璧な笑顔に戻るのかと思いきや、もう面倒になったのか、エキストラだと見下していたのか、冷えきった素顔のままで私をちらりと見た後、私の言葉を聞いていたのかいないのか、突然まくし立て始めた。
「さっきの連中見てただろ? あいつらのしつこさ見てただろ? まったくやってらんねーよ、こっちが下手に出てたらつけあがりやがって……」音響機器がハウリングを起こしたかのような、耳障りな罵詈雑言は続き、私は呆気にとられたまま黙って聞いていた。言いたいことを言い終えると、彼はくるりと背を向けて行ってしまった。
不思議と、以前より、Pのことが少しだけ好きになった気がした。