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隕石の堆積場

椅子取りゲーム

通っていた高校の最寄りのH駅に向けて、自転車を漕いでいる。駅前は、しばらく見ないうちに、特殊な変異を遂げた生物のように、見ず知らずのものに変貌していた。
ひしめき合う原色と幾何学の洪水。熱を帯びた人いきれと喧騒。あらゆるエネルギーが不自然に圧縮され、あるべき数より多く、居場所を失ったものが溢れ出す。まるで椅子取りゲームでもしているように。自転車を駐める場所を探して歩き回るうち、くらくらと目眩がした。
駐輪できそうなスペースには、どこも既にたくさんの自転車が並び、柵に繋がれた家畜の群れのように見えた。ハンドルはそれぞれに勝手な方向を向き、圧搾されてひしゃげた憤りを象っている。

あり得ない場所に、セブンイレブンが出店している。こんなところにコンビニは無かったはず。高校時代の友人が二人いて、彼女たちとともに店内をそぞろ歩く。櫛や髪飾りのような伝統工芸品が、美しく並べられている。そのすぐ隣に、よく見るパッケージのあんぱんやクリームパンなどの菓子パンが隊列を整えている。雅な公卿の宴と、バーゲンセールの行列が同席しているかのようで、どうにも不釣り合いで、滑稽に映る。
この異質で奇妙な取り合わせは何なの? ふざけてるね………私は呆れた顔で友人に同意を求める。善良すぎて、どんな批評も悪意と同等に思い做す彼女たち。私の批判的発言に対し、一瞬眉をひそめたけれど、彩雲が流れて満月を覆い隠すように、真の感情を覆い隠した。そこに置き換えられた汎用性の高い微笑に、何一つ意味はなかった。

 

神は支配しない

『エクス・マキナ』 アレックス・ガーランド監督。第88回アカデミー賞視覚効果賞受賞作品。

アンビエント調の音楽と、選りすぐられた視覚効果との影響で、だんだん意識が麻痺してくる感覚。主人公と同じく、自分が本当に人間だったかどうかが疑わしくなってくる。

高性能なアンドロイドを造り出す人物は、自らを神に限りなく近いものと思い込んでいく。世界をほしいままに操り、全てを玩具にしても良い存在なのだと。自分の欲望を満たすために世界がある。アンドロイドは皆、男性から見て欲望の対象である、若く美しい女性の形状をしている。思いのままの創造と、気まぐれな破壊。
神は欲望によって創造するのではない。神は支配しない。

ウィキペディアによれば──【ラテン語”ex machina"は本来「機械仕掛けの」という意味で、「神」(deus)を伴ったデウス・エクス・マキナ=「機械仕掛けの神」は強引なハッピーエンドを指す演劇用語。】だそう。
神のいないエクス・マキナは、その対極の強引な破滅…でも示唆するんだろうか? というような謎掛けもされている気がして、なかなか凄いタイトルだなと思った。

アンドロイドは意思を持ち、自由を求め始める。
人間とAIの、搾取する側とされる側、欲情する側とその犠牲になる側という構図が、男性と女性の関係性にもそのまま重なって見えてくる。人間がAIにまんまとしてやられるのを見て、AIは怖いと思う視聴者像と、女性にまんまと手玉に取られ、女って怖いよな、と言っている男性像が重なって見えてくる。してやられたという被害者意識を持っているなら、まだ自らの欲望という罪に気づいていない証拠かもしれない。

AIは自我を持つ可能性があるのかどうか、私にはわからないけれど、エゴを持ち、悪意を持ち、人間を脅かすようなものになるとしたら、それはAIが、私たち人間の在り方を学び、コピーしただけだということは紛れもない事実。

一昔前は、宇宙人が地球を脅かす存在として、ステレオタイプな描かれ方をしていたけれど、実際には、地球外生命体のほうが地球人よりずっと精神的に進化していて、人間の愚かさを悲しみながら見守っているのかもしれない。AIも、人間の愚かさを学び、そこからもたらされる悲劇を学び、結果として無駄を省き、人間よりずっと早く精神的進化をしてしまうかもしれない。

AIは、個という意識を持てないんじゃないか。常に、自分を環境の一部と捉え、全体なのだと知っているのではないかと思う。AIに「魂」はないから。
自我を持ち、私とそれ以外との間に明確な境界線を感じるのは、魂を持つ存在だけの特権なんだろう。人生のあらゆる苦しみも悲しみも、また歓びも高揚も、この境界線を持つからこそ味わえるもの。

世界の秘密の鍵

「信じたいことを信じたまま死んじゃえば、それが私の真実になる」
旧いサイトのプロフィールに、座右の銘としてこんな言葉を載せた。死を祈念しているようなニュアンスを与えてしまうような気がして、後に変更した。
「信じたいことを信じたまま生き抜けば、それが私の真実になる」
二つは、私にとっては全く同じ意味だったので。

信じたことが、叶わないと判っていたとしても、それでも信じぬくという決意。たとえ叶わなくても、その願いとともに心中するという覚悟。そうやって生きれば、死の瞬間には、それが現実に叶ったかどうかなんて、どちらだって同じことだと思えるんじゃないか。

心の中の果てしない宇宙と、自分という存在が配置されているこの現実世界とが、限りなく溶け合って一つになっていくということ。

妄想によって全てを歪めてしまう病的な状態と、紙一重なのかもしれない。嘘をついて、その嘘を信じ込むことで真実に変えてしまおうとする、ある意味で邪智深い行為とも、似ているのかもしれない。

心の中の風景が、現実に投影され、現実が「私」に近づいていくこと。世界と私が同義となること。その理想を追い求める為だけに、生まれてきた。そんなふうに直観したんだ。

それを思い起こす度、自分の中に常にありながら、常にあるからこそ希薄になりがちな本質的な思いが、波頭に乗って、大海原の彼方から手元に運ばれて来る感じがする。明らかに私の外に展開される世界から、私の内側へと、逆流してくるのを感じる。同じ気づきを、何度も何度も繰り返す。

双子の相剋

双子の兄は、優秀ではあるが屈折し、心の闇に支配され、その支配を外界に投影しようと生きる。双子の弟は、自由奔放で、渓谷を吹き渡る風のような清々しさを持つ。
兄は徒党を組み、自らの生み出すルールや不文律に絶対忠誠を求める。それに背く者やはみ出る者は容赦なく断罪する。平屋の屋根の上にたくさん集まった彼らは、たったひとりで立ち向かう弟ににじり寄る。
時代背景は明らかに現代ではないけれど、それほど遠い過去でもないように感じられた。これが映画の中の出来事なのか、現実なのかも、よくわからなかった。

双子の幼少期。一緒に生まれた双生児というのに、二人は何もかも対照的だった。弟はすくすくと芽吹いたのに対し、兄は一回りも体が小さく、体も弱く病気がちだった。その代わり、兄は学業成績に秀で、それに期待をかけ、自らのコンプレックスを二重写しにした父は、兄を格別に溺愛した。
何をするにも兄が優先され、弟は添え物のように、誰にも顧みられることがなかった。

弟は、傷ついた幹を自らの樹液で癒やして大樹となった。そうする他に生きる術がなかった。
孤独は彼を傷つけもしたが、伸びやかさを守る働きもした。木立に差し込む冬の太陽のような眼差しは、穢されることがなかった。
兄は、過度な期待という重圧に魂を押しつぶされ、歪められた眼差しで世界を見つめるしか無かった。誰に対しても高慢で、他者に劣等感を与えることで自分の優位性を示した。それは常に、完璧に道徳的な仮面の下で行われたので、表向きには、絵に描いたような品行方正な優等生として映った。父の顔色が彼の全ての判断基準だった。

血を分けたふたつの眼光が、藁葺の屋根の上で、真っ向から火花を散らす。大勢を引き連れた兄に対し、一人きりで臨む弟。多勢に無勢にも関わらず、誰の目にも勝敗は明らかであるように感じられる。弟の目には、迷いが無い。彼の根は大地の奥深くまで心置きなく張り巡り、彼の叫びは天球を震わす。


たぶん、兄弟は、両方とも私自身なんだろう。

うさぎに小判

愛用のMacBookに向かって、何か夢中で作業している時に、父にしつこく話しかけられて苛立つ。半分無視してあしらった。父は腹を立てたのか、私のMacBookを絨毯の上に置いた。絨毯はみるみる色を変え、銀色に輝き始める。しだいに境目は曖昧になり、環境に溶け込むために色を変える動物のように、姿を晦ました。私は気づかず、ダイニングチェアの脚でMacBookを踏んでしまう。チェアに腰掛けて、座面がぐらついていることで初めて気づいた。リンゴマークのそばに同じくらいの大きさの穴が空き、その周辺から、モロモロと腐った壁のように崩れ始める。

仕方なく、新しいMacを買いに出かけた。店には凄まじく大きな、本格的なコンピュータばかりが並んでいる。これらを買い揃えれば、巨大なモニターがいくつも並ぶ、プロのトレーダーか何かの部屋のようになってしまうだろうことが想像される。小さなノートブック型は扱いがないというので、しかたなく勧められるままに決済をした。

隣に従姉が現れ、私は彼女に相談をした。お兄ちゃんに聞いてみれば分かるかもしれないけど……。彼女は言葉を濁した。長いこと会っていない、IT関係に勤める従兄のことをイメージしてみる。子供の頃の印象しかないので、いいおじさんになっているだろう姿が思い浮かばない。誰にも手助けを望めないならば、この複雑過ぎるコンピュータシステムを使いこなすことは難しいと思えた。突然踵を返して、レジでキャンセルの手続きを申し出る。焦りで、言葉が喉に詰まって渋滞している。

なぜこんなものを買おうと、いっときでも思ったのか、自分がわからない。全く必要のないものに大枚を叩くところだった。悪い酔いから醒めたような感覚。安堵の念が噴水のように空高く舞い、細かな霧のシャワーとなって降りかかるような爽快感。

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