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Dépôt de Météorites

前世の記憶のような

かつて見た印象的な夢。まるで前世の記憶のよう。


古代のエジプトのような砂漠のまちに居る。
白い麻のような繊維で編まれた履物を履いた自分の足を見下ろしている。

私は白いローブのような服を着た男性で、愛する女性の遺体のそばで泣いている。薄暗い部屋。
裏切って長い間待たせていた人。彼は南の方へ出掛けて行ったきり帰ってこなかったのだった。
一番大切な人を苦しめ失ってしまった自分が許せなかった。

砂漠の中へ迷い込んで、自ら命を絶つ。
砂に頬をうずめたその最期の視界が白く濁っていく。
砂に埋もれ骨になった自分を俯瞰している感覚。鴉のような黒っぽい鳥となって砂漠を切り裂いていく。

 ─
《アタラの埋葬》という絵になんとなく似ている気がする。
ルーブル美術館に昔行った時、この絵を初めて見て、強く印象に残った。

 

女王と散らかった切り花

韓国ドラマ「善徳女王」をテレビで見ている。
実際のドラマとは異なり、時代背景は超古代のようであり、神話の世界のようでもあり、巨大石像が動いたり、動物の彫像が喋ったりする。そのシーンでも、主人公たちが古びて朽ち果てかけた木造の寺院に入っていき、ある小さな一室で、壁の中から大きな木造彫刻がぬーっと現れるのを目撃する。壁が青い光にとろけ、その中から突如として、異次元からたった今到着したかの如く、馬とも牛ともカバともつかない得体の知れない動物を象った彫像が現れた。そして低くエコーがかかったような声で、何かを呟いた。音としては聞き取れても、古代の言語のようで、意味が全くわからない。


次の瞬間、その寺院の一室が自宅のリビングに変わっていた。
先程まで女王の衣装を着ていた主演の女優が、現代の服装でそこにいる。ヒッピー風とでも言った雰囲気。フリンジのついたニットのロングベストを重ね、床につくほどのロングスカート。アースカラーのグラデーションがこなれた雰囲気で、とても似合っていた。腰まで届くロングの髪を強めのソバージュにし、無造作にハーフアップにしていた。サバサバとした佇まいで常に声が大きく、竹を割ったような男前の性格に見えた。


彼女は私に一冊の雑誌のようなものを手渡し、指定したページを読むように言う。その雑誌をめくると、ページ数を示す数字ではなく、代わりに暗号めいた言葉がそれぞれのペーシの隅に書かれていた。私は言われたようにそのページを読み上げた。予備校か何かの先生と生徒のようだった。


私の次に、ソファーで寛いでいた初老の紳士(某日本人俳優によく似ている)が指名され、「灼熱の太陽」というページから読むように指示される。彼は急におどおどした態度を見せ、どこを読んでいいかわからない様子。なんとかの太陽というのがあるけど、ここかなぁ? と呟いている。灼熱という漢字が読めないのか、文字が小さくて見えなかったのをごまかしているのか、どちらかだろうと私は思った。それとも灼熱という漢字は私の思っているものよりもっと難しい、私の知らない字なのだろうか?と不安になる。
女優は相変わらずでかい声で、そこで良いのだと指示を出す。飾り気のないその態度に、私は好感を抱き始めている。


自分の番が終わったので、私はキッチンに居る母のところへ歩み寄る。母は、大量の切り花をいくつもの花瓶に活けている最中だった。あまりに大量なので切り散らかした枝や葉っぱで床は足の踏み場もない状態だった。
母が「あっ!!」という声を上げた。どうしたのかと尋ねると、「踏んじゃった!」と言う。
「何を?」と訊くと、「手首!」
「……手首?」と私は驚いて訊き返した。
そこには、普通の人間の三分の一くらいに小さくなった父が、床の上に直に座り込んでいた。上体をやや反らせているのを両腕で支えるようにして、床に手をついていた。その手を踏んだということらしい。小さすぎて、誰もその存在に気づかなかった。


「踏んじゃった! 何を? 手首!」という会話を聞いていた女優は、突然けたたましく笑いだし、お腹を抱えていつまでも笑い転げた。
「手首! 手首!」と言って両手を叩きながら、よほどツボにはまった様子。
私は自分の会話で彼女がウケてくれたのが何となく嬉しくて、これをきっかけにもう少し仲良くなれたらいいなと思う。とはいえ心理的な壁が跡形もなく消えたわけではなく、まだまだ手探りで歩み寄り、関係を作り上げないといけないと思うと、そう簡単に行かない気がして、やや気持ちが重くなる。
子供の頃、春の新学期を迎えるたびに感じていた、少し懐かしいような心の揺らぎと、居心地の悪さを思い出す。

 

迷い犬

家の庭に犬が迷い込んできた。
淡い茶色の中型犬で、痩せていて、毛は短い。
眉間のあたりに円形脱毛症のように毛が抜けている箇所があり、それが妙に目立っている。
私は犬に声をかけ近づいた。犬は怯える様子はなくじっと動かない。


犬は首にプラカードのようなものをかけている。
近づいてよく見ると、得体の知れない広告のような紙がパッチワークのように何種類も貼り付けてある。
広告の内容を読み取ろうとするのだけれど、日本語で書かれているのになぜか意味が判読できない。
なぜ判読できないのだろう不思議に思った。原因は広告の方なのか、私の認知機能の方なのか?
どこかに犬の身元がわかるようなものが書かれていないか探してみる。
プラカードは何枚も重なっていて、一番下のプラカードの裏側に小さな張り紙があった。
若い女性5人だけの動物病院。広告はまるでキャバクラか何かのそれのようだ。
着飾った派手な出で立ちの女性のイラストがいくつも書かれていて、
その陰に小さく申し訳程度に住所と携帯電話番号が書かれていた。いかにも若い女性の、媚びるような筆跡。
プラカード裏のその張り紙は端がめくれていて、犬の首下のあたりに角が突き刺さるようになっていた。
ただの紙なのになぜかとても硬質で尖っている。
犬はそれが痛くてたまらないようだったので、私はその小さな広告をはがし、プラカードの一番表に貼りつけた。
犬はほっと胸をなでおろしたような表情で私を見ていた。


家の中からネルが吠える声がして、気付くといつの間にか庭に出てきていた。
ネルは知らない犬をひどく警戒して激しく吠えかかる。
実際のネルはページュ色の毛色だったけれど、夢の中では真っ白なポメラニアンだった。
私は慌てて暴れるネルを抱え上げ、家の中に放ってドアを閉めた。


庭に戻ると、動物病院の広告から抜け出てきたような若い女性が立っていた。
彼女は待ち構えていたように話しかけてきた。
この犬は売れ残って大きくなってしまったので私たちが保護している。
突然姿を消したので探し回っていたとのこと。
私は犬が首元の広告紙を痛がっていたので剥がした旨を話す。
女性は丁寧に感謝の意を述べた。対応は非の打ち所がなく、そのことが逆に違和感を抱かせた。
今までは病院でこの犬を飼っていたけれど、これからは私個人で飼うことにしようと思う。そう彼女は話した。


仲間のスタッフらしい男性が数人集まってきた。彼らは皆同じ青い作業着のような服を着ていた。
彼らは犬が見つかったことを率直に喜んでいる様子。すぐに犬を抱えて連れて行こうとする。
犬と目が合った。短い交流ではあったけれど、私は犬の真心に触れたように感じていた。
別れがとても名残惜しかった。


作業着の男たちは言葉と裏腹に、どこか犬への対応が荒っぽい気がした。
このまま犬を渡してしまっていいのだろうか? 心の片隅に疑念が生じ、それが次第に大きくなっていった。
いつの間にかまたネルが庭に出てきて、彼らに吠えかかる。
ネルをなだめて抱きかかえているうちに、彼らは犬を連れて行ってしまう。
罪悪感のような後悔のような、名付けられない黒ずんだ感情が胸の中に広がった。