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鍋のなかの子犬

コーンポタージュのような、淡いクリーム色の液体を鍋に入れ、火を着ける。ゆっくりと温められていく過程に、私は鍋から離れ、部屋の中にいるはずの三匹の犬を探す。二匹は元気に戯れていた。もう一匹の、家に来たばかりの子犬が見当たらない。私は鍋へと戻り、液体をゆっくりとかき混ぜ始める。

その瞬間、瞬きよりも短い刹那に、何かの気配がさっと目前を過ぎったような気がした。黒っぽいエネルギーが、サブリミナルの映像のように脳裏を駆け抜けたけれど、それが何かは解らない。私は訝しさを飲み込んで、液体を混ぜ続ける。

液体が煮立ってきて、混ぜている手に重たく感じられるようになる。ふっと嫌な予感が走り、鍋の中を覗き込むと、丸くなった黒っぽい毛のようなものが見え隠れする。事態を認識できず、数秒を突っ立ったままでやり過ごした後、慌ててシンクに鍋の中身をひっくり返す。シンクの中にはまだ洗っていない皿が浸かった桶があり、その中を目掛けて鍋を逆さに振ると、煮え立ったスープと一緒に子犬が流れ出た。水道の蛇口を全開にして桶の中に流し込み、子犬を冷やそうとする。黄色い液体が流れ落ち、子犬の焦げ茶色の毛が露わになって来た。心の中に冷汗が流れる。子犬はもう命がないかもしれない。震える心を抑え、子犬の顔の辺りを拭ってやると、黒くつぶらな目がパチリと開いた。

流してしまったスープは、二度と食す機会のないとても高価な珍味だということがわかっていた。それを全部流してしまったことが一瞬念頭を過ぎり、そんなものを一瞬でも気にした自分自身が心から憎く感じられた。子犬はすぐに意識を取り戻し、元気に身体を振るって水気を振り飛ばした。