そういえば、ネット通販で注文したものが届いていない気がする。期日指定で届くはずになっていたのだけれど、いつだっけ? もうとっくに予定の日は過ぎているのでは? 急にそのことが気になった私は、なぜか近所のIさんの家に確認に行った。
角を曲がり、もうひとつ角を曲がると、白い家が見えてくる。Iさんの家のインターホンを鳴らしたが、残念ながら留守だった。不機嫌そうな冬の風が気まぐれに頬を刺す。
同じ角を戻り、もうひとつ角を戻ると、全く見覚えのない寂れた商店街へ出た。小さな店舗が連なっているけれど、人通りはまったくなく閑散としていて、店の中もがらんとして何を売っているのやらさっぱりわからない店ばかり。
そのうちの一つで、店番をしている三十代くらいの女性と、その子供が二人いた。小さい弟のほうが、私が通り過ぎると後を付いてきた。私が立ち止まると、その子も立ち止まる。私が振り返ると、その子ももじもじとして明後日の方向を見ている。母親の店に立ち寄って欲しいのだろうか?
私は声をかけた。ママのところへ帰りな。おばちゃんはお店には行かないよ。自分のことを自然におばちゃんと言ったことに少し驚いた。十分おばちゃんな歳だけれど、普段そう呼ばれることもないし、自分のことをそう思ってもいなかったはずなのに。
子供は意味ありげな目をして、遠ざかる私をじっと見ていた。
家に帰ると、注文したものが届いていた。他にも沢山のダンボールやリボンの掛けられたプレゼントが、所狭しと並んでいた。クリスマスツリーとその根本に置かれたプレゼントの数々を思い起こさせる。
私が注文したのは、初心者用のアロマオイルのセットだった。母の誕生日のプレゼント。物ぐさな母のために、簡単な道具も揃ったセット品を買ったはずなのだけれど、何本かの精油だけで道具類は何も入っていなかった。仕方なく、私は母に使い方を説明した。空いたプラスチックの容器、ヨーグルトやプリンの容器なんかをとっておいて、そこに精油を垂らして香りを楽しんだら、その容器ごと捨ててしまえば簡単だよ。面倒くさがりの母が器具をまめに洗ったりすることはありえないだろうから。
私と母の他にも、沢山の母娘が居た。届いた荷物の山はみな、娘から母へのプレゼントだった。そしてそれぞれに感動的なシーンが繰り広げられていた。
私の母も、思いのほかアロマオイルを喜んでくれたようだった。中身など何でも構わないのかもしれない。昔、バラ園に行ったことがあったね。いい香りのバラがあったね。母は懐かしそうにそう言った。
バラの咲き乱れる光景が脳裏に鮮やかに蘇った。5月のきらめくような陽光と、痛いほどの新緑と、目深にかぶったつば広帽子の下の笑顔と。
また行ってみようか? そうだね……。私はそれが母と訪れる最後のバラ園になるような気がして、少し怖くなった。