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Dépôt de Météorites

学校に行かなくても良いパラレルワールド

始業式が終わって、今日から授業が始まる。朝なんとか起きたものの気が重くて、朝食にちらし寿司のようなものがテーブルにあったのだけれど、グズグズしていて食べる時間がない。テレビがついていて、母はそれに夢中だった。


7時を回って、もう支度をしなければ。新品の青い色のノート3冊と、体育で着るジャージを黒いナイロンのバックに詰める。筆記用具は気に入っている万年筆ではなく、無くしてもどうでもいいようなボールペン、見た目だけカラフルでかわいいやつを急いでピンクのポーチに入れた。ポーチはこれでいいだろうか、もっと大きいのが良いかも、と切りもなく考えを巡らす。


車を運転して家を出たものの、眠くてたまらない。道半ばの小桜通りで広場に停車して、モヤモヤと湧き上がる学校に行きたくないという気持ちを反芻する。そういえば指定されたスニーカーを買わなければいけない。白くてゴツいやつ。学校にある店で売っているはずだ。スーパーの折込チラシのように、派手に赤や黄色で印刷されている連絡プリントを開いてみる。25cmはそもそも売っているだろうか。22〜25.5まである。それぞれの在庫数まで書いてある。25cmは他と比べて著しく品薄だった。遅く出発したから既に売り切れているかもしれない、いや売り切れてしまえば良いのだ、それを言い訳に逃げることができるかも? 


運転席にいたはずの私はいつの間にか後部座席でうなだれている。もう時間だ、仕方ない。車のドアを開け外に出て、鍵を閉めようとすると鍵が見つからない。黒いバックに両手を突っ込んで探してみる。ポケットにもない。よく見ると、運転席のドアに既に鍵が差し込まれていた。古くてよれよれになった革のキーケースがついている。それは何十年も前に実際に母が使っていたものだった。


鍵を締めていかなければ。母の車が盗まれてしまったら大変。しかし鍵は差し込まれたままびくとも動かない。このまま放置することも考えるけれど、それはやはりまずい。この際、昼になるまでどこかへ消えてしまおうか。昼が過ぎれば違うタイムラインに移動して、学校に行かなくても良いパラレルワールドに存在しているかもしれない。

 

砂嵐

両親と祖母と一緒に、車に乗ってどこかに出かけようとしている。
外はひどい天気で、激しい風が狂ったように吹き付ける。辺り一帯の砂という砂が舞い上がり、うねりながら窓ガラスに襲いかかるのを、私は室内から見ていた。その様はさながら、赤い舌を出してとぐろを巻く何匹もの大蛇のようだった。空気が微細な砂の粒子を孕み、それが空気の分子まで変質させてしまったかのように、不穏な波動を伝えていた。世界が黄ばんだ色に霞んでいる。雨戸を閉め、家を守らなければいけない。


急いで戸締まりをし、玄関の外に出て、鍵を閉めようとする。すると、玄関の戸がまるで暖簾か何かのように風にたなびく。ぐにゃりぐにゃりと揺れ、それでいて重い金属の質感はそのまま。サルバドール・ダリの絵のようだ。
私は困り果て、片手でドアを押さえながらもう片手で鍵穴に鍵を差し込む。鍵穴は上下に2つあって、上の鍵を閉めると下が外れてしまい、下の鍵を閉めるとまた上の鍵が外れてしまう。これではどうしようもない。


たなびいた玄関ドアの隙間から、室内に養生テープがあるのが目に入った。これでドアを貼り付けてしまおう。テープに手を伸ばした時、後ろから祖母に声をかけられる。ここはあたしがやっておくから、早く車に乗ってなさい、と祖母が言う。もうボケかけて普段から戸締まりを任せるのも心もとない祖母に、この緊急事態を任せられるはずがない。私は祖母に、車に戻ってじっとしていてほしいと伝える。祖母は全くその言葉が耳に入っていない様子。私の手から養生テープをひったくって、見当違いの場所に貼り付けようとする。私がそれを制止すると、声を荒らげて、自分がどれだけ有能でどれだけの困難を解決してきたかを誇らしげにまくしたてる。
埒のあかない押し問答が限りなく続く。私の苛立ちは限界の一歩手前で、暴言を浴びせかけたくなるのをなんとかこらえていた。

 

悪人になる練習

どことなく松田優作風のちょっと悪い感じの男性。常識的な善悪の概念など意に介さないような。そんな人に率直に心をぶつけることができて、流れるように自然に受け止めてもらえたことが嬉しかった。
私は赤い服を着ていた。わがままな態度で高飛車な物言いをし、感情のままに泣いた。


その人とスーパーに買い物に行く。駐車場で、彼が放り投げたペットボトルを私が拾ってゴミ箱に入れたりした。そんなこともいい人ぶってるようで、もうやめようかと考えた。もっと悪い人になろうかな。彼のように。複雑に雁字搦めになった人生を全部バラバラにして、そのほうがずっと楽に生きられそうだ。


そのあと何かが起こり(何だったか思い出せない)、私は彼に向けて暴言をぶつけていた。地獄に落ちろクズ男! 本当に腹が立っているのは誰に対してだったか、よくわからなかった。

 

藍色に沈む街を逃げ出す 

外国、多分ロンドンにいて、私は列車に乗っている。地下鉄のようだけれど周りを見ると様々な小売店が線路沿いに並んでいて、その明かりが眩しい。西の方からひたすらに真っ直ぐに続く、全くカーブのない線路の上を、列車は都市の中心部に向けて滑り続けている。
早く帰りたい、一刻も早くこんなところから逃げかえりたいと私は焦っている。

多分空港に向かおうとしているのだ。駅で乗り換えるために降りるが、街が変わっているのか元々知らなかったのか、脳内にあった大まかな地図イメージと何かが少しずつ異なっている。方向感覚さえ失い途方に暮れる。無力感と恐怖。


その都市のイメージはいつも深い藍色の闇に沈んでいる。南側には海があるはず。海辺の記憶も日中であるのにくすんだ青のヴェールがかかっていて、寒々としているが、街全体が絵画の中にあるかのように現実感が希薄であり、それが不自然であるという認識自体も希薄になっている。
そのイメージは、今私のいるこの都市と全く重ならない。(実際のロンドンとも重ならない)
なにか大きな間違いを犯しているのかもしれないと更に不安が膨らんでいく。


列車に乗り込む以前、空港へ向かうために荷物をまとめていた場面。
古い友達のMちゃんがいて、一緒に支度をしようとする。急がないと間に合わないのに荷物がたくさんあって、取り急ぎ詰められるものと、もう諦めるしかないものを選り分ける。絶対に諦められないものもある。猫を連れていかなければ。血相を変えて猫を探すと、猫はその不穏な空気を察知して、するりと身を隠してしまう。どうしよう!と頭を抱える。

そういえば、猫にずっとご飯をあげていなかったような気がする。大切な猫のことを忘れているなんて、私はどうしてしまったのだろう? いつからこんなおかしなことになっていたのだろう。
猫は寂しそうな、面倒臭そうな目で、遠くからこちらを見ていた。

 

モナリザと2つの時計

エナジーヒーリングのようなものを受けに行く。セラピストは髪のとても長い50代くらいの女性で、モナリザのように微笑み、スリムな体つきをしている。ベッドに横になるように指示される。そのベッドは自宅でいつも寝ているものと同じで、枕や布団まで全く同じだ。

私は横になるとすぐ、胎児のように体を丸めて目を閉じる。セラピストは幼子を寝かしつけるように、私の横に添い寝する形で横になった。そこで子守唄のように聞かされたレクチャーは「セルフラブ」がいかに大切かという内容。


うつらうつらしながらその声を聞いているものの、頭の中の思考はいつのまにか全く別のことへと流れ出し、雑念にまみれる。

せっかくこうして都心まで出てきたのだから、帰りに銀座かどこかで普段よりちょっと高級な服でも買って帰ろうか。いつも安物ばかり買っていて、もう少しマシな服を持っていないと。今自分の着ている服を意識する。こんな部屋着のような格好で街に出るのは恥ずかしいかな。


セラピーが終了し、起き上がると、着ていた白いシャツが思った以上にしわくちゃになっている。スウェット生地のネイビーのワイドパンツも、白い繊維くずが沢山ついていて、これでは恥ずかしくて出歩けたものではない。すぐに家に帰ろうと決意する。


階段を降りると、そこは自宅の一階だった。リビングに行き、今何時だろうと時計を見る。壁掛け時計の前に、何やら新聞紙をくちゃくちゃに丸めて固めたような不思議な物体が浮いていて、それが邪魔して時計の針が見えない。物体と言うより、その部分だけ何もない、プラックホールのような「無」と言ったほうが正しいかもしれない。

私は背伸びをし荒々しい動作で、その得体の知れない灰色の闇を引きずり下ろす。ようやく時計が見えた。午前11時37分。まだお昼前だった? 体感としてはもっと時間が経っていた感じがしたのに。

訝しく思い、部屋の反対端にあるもう一つの壁掛け時計を見た。午後2時20分を指していた。やっぱり。さっきの時計は電池が消耗していたのか、若しくはあの灰色の闇がなにか悪さをしたのだろうか? と考える。