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ノイズ

暗闇の中を走る車の後部座席で、流れている音楽に耳を傾けるが、大音量であるがゆえに快適でない。運転席には、歳が離れているせいかあまり親しく話したことのない従兄。音楽は大音量なのに、何の曲なのかどのようなメロディーなのかが全く感じ取れない。辛うじてそれが音楽であるとわかる、ノイズの集合体。

丁度いいバッグが見つからず、仕方なく家にあった誰のものかわからないオレンジ色の革製のハンドバッグを持ってきた。それがあまりに自分にふさわしくないし、似合ってもいないし、革の匂いが気になって仕方なく、気に入らないことばかりに閉ざされる。見えない仮面を自ら被り、自分のものではない持ち物に囲まれ、一挙手一投足が窮屈で、その上でどんな自分を演じたらいいのか解らない。居たたまれない心持ちで、こころなしか肩を丸めて俯いている。車内の闇を、時折対向車のライトがえぐっては流れていく。

運転席の従兄が何か言葉を発した。音楽がうるさすぎるせいか、言葉が聞き取れなかった。度々聞き返すことが礼に悖ることのような気がして、またとても恥ずかしくて、多分このようなことを訊かれたに違いないと想像した内容に対して返答する。するとまた従兄が何か言う。私の声は彼に聞こえているのに、彼の声は意味をなして聞こえない。轟音の中に言葉が吸い取られ、意味を解体されたただの音に還ってしまう。私は聞き返すことが出来ず、もう一度見当違いな返答をする。それが見当違いなのかどうかすら確認できない。従兄がもう少し大きな声で話してくれたらいいのにと思う。いつも声が小さめで聞き返されることも多かった自分がどの口で言う?と皮肉を投げかける思考。

この状況を笑顔で切り抜けようと、私は必死に微笑んだ。従兄の表情がミラーに映る。笑っているようにも、全くの無表情にも見える。感情も鏡に吸い取られ解体されてしまったかのように。外界が以前にも増した異世界となり、手掛かりとなるあらゆる方法論、これまでの人生で鍛え上げてきたスキルが無に帰してしまったという戸惑い。