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ファミレス神天戸店

不思議なテレビCMが流れていた。何の宣伝かわからないけれど、車の運転席から見える光景を、ひたすら淡々と映し続けているものだった。赤信号で減速し、止まる。横断歩道を渡っていく子供たち。発進すると緑の並木道に差し掛かる。右折する際、待てども待てども対向車が途切れない。運転者の視線の先を延々と映し続けるだけなのに、なぜだか目が離せない。

私はいつの間にかその車の助手席に乗っている。運転しているのは父だった。現実には父は運転免許を持っていないので有り得ないこと。無言のまま、フロントガラス越しに移り変わっていく光景を、自分とは何の係わりもないスクリーンの中の映像を見るように、突き放しながらぼんやり見つめていた。見知らぬ街を通り抜け、家に向かっているのだけれど、いつまでたっても家の近辺に辿り着かず、聞いたこともない地名のなかを走り続けていた。

信号で止まった時、とあるファミレスの目の前だった。店の名前が目に飛び込んでくる。「神天戸店」と書かれている。その地名を見た瞬間、間違った道に迷い込んでいるということを、なぜか悟った。父は自分の過ちを決して認めず、自ら引き返すことのできない人だ。いつもはうるさいくらいに饒舌な父が、黙りこくっているのがその確かな証拠。

次の瞬間、私はファミレスの店内で、明るい窓際の席に腰掛けていた。信号待ちをして数珠繋ぎになっている車たちが、分厚いガラスの向こうによく見える。テーブルの向こうには、一人の少女が俯いていた。高校生くらいのその少女は、かつての自分自身だということがすぐにわかった。私たちは空っぽのテーブルを挟んで、ずっと押し黙ったままだった。

少女は俯いたままで、時折思い出したように窓の外を眺めた。ふてくされた態度は誰かを非難し責め立てたいからではなく、ただ自分自身に腹を立て、その怒りをどう処理していいかわからないからだった。そのことは手に取るようにわかる。
注文したはずの料理はいつまで待っても届かず、私たちは相変わらず、塵一つも置かれていない艶々に磨かれたテーブルを見つめながら、沈黙を噛みしめている。