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針のような髪

テーブルの上に髪の毛が落ちていて、私はそれを手にとって弄ぶ。とても硬く芯のある短い髪。針かと見紛うような、下手をすると指に刺さりそうな危うい毛髪は、指先で銀色に鈍く光った。その髪質から、同席している男性のものだろうと推測できた。

彼とその友人の女性、私の三人で、カフェのテラス席のような場所でテーブルを囲んでお茶を飲んでいる。
「私の髪は太くて硬くて芯があって、もっと柔らかくて細い、しなやかな髪に憧れてたの。こう、長い髪が風でふわっと根本から逆立って揺れるみたいな。私だと風が吹いても根本はガチガチで毛先しか揺れやしない」私がそう話すと、女性が相槌を打った。「わかる。根本からふわっと軽やかで、落ちかかる長い髪を無造作に掻き上げる、みたいな」「そうそう。そういうのが憧れで、ああなりたいなと思ってた。でも私の髪を見て、コシがあってツヤツヤで綺麗ですねって褒めてくれる人もいるんだけど」「ないものねだりだよねぇ」
女性二人の会話をむっつりと腕を組んで聞いていた彼が一言発した。「自分の良さに気づこうとしないで、人に嫉妬ばかりしているのは、ただの馬鹿だ」

夜の暗い路地で、彼と二人で歩いている。立ち止まり、彼は私の方に向き直り、仏頂面のままでぐっと前のめりに肩を近づけてくる。私はそれを撥ね除けるように言う。
「あんたは今調子に乗っていて、飛ぶ鳥も落とすような勢いのつもりでしょう。あんたを拒む女性なんていないと思ってるでしょう。それが鼻について、ひっぱたいてやりたいくらいだよ」彼は眉の一本も動かさず、自分の手のひらで頬を軽く叩いた。「たしかにあんたのスペックなら拒む理由はないよ。正直揺れたよ。でもスペックで判断するのは、あんたに対しても失礼なことだよね。もちろん自分自身に対しても」一気に吐き出して、躊躇いも恥ずかしさも流れ出ていった。
「それに、あんたはそのうち飽きたら捨てる。次の場所へ行きたがる。それが今から見えるようだから。私はあんたとは違って、好きになってしまったらそれが全てになっちゃうの。だからその時には、宇宙全部をを失うようなものなの。それはとても恐ろしいことなの」

彼は温かい目をして、同時に、内蔵を全て見透かすX線のような銀色のまなざしで言う。「だから気に入ったんだけどな」