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与えられた名前

私は赤ちゃんを産んだ。正確には私のお腹から産んだわけではないのだけれど、どこからともなく降ってきたように私の手に授けられている。そして確かに私の子であることが分かっている。

あなたの名前は何なの? 私は赤ちゃんに問いかけた。赤ちゃんは「ヒロユキ」と答えた。はっきりとした発声。完全に大人の声だった。
赤ちゃんは女の子のはずだった。ヒロユキと言ったら男性の名前では? あなたは女の子でしょ? そう尋ねると赤ちゃんは暫く無言だった。その後、ゆっくりと口を開いた。名前なんか、後でいくらでも考えられる。今は適当にヒロちゃんとでも呼んでおけば? そうすれば「ヒロ」のつく名前なら何でも、ヒロコにしようがヒロミにしようが、潰しが利くじゃん。ギャルのような口調で赤ちゃんは喋る。

赤ちゃんは、電話をかけたいと言い出した。誰にかけるのかと訊くと、お母さんと答えた。母親は私のはずでは? と訊くと、向こうにもお母さんはいるのだと言う。
お母さん、犬の名前を考えておいてよ、その子はもうすぐこっちに来るんだからね。名残惜しい? そりゃその子と別れるのは悲しいよね、お母さん可愛がってたもんね。でも仕方ないじゃん、こっちに来ることになってるんだから。

早口でまくし立て、言いたいことをすべて一息に吐き出してしまうと、まるで用を足した後のようにすっきりとした顔をして、赤ちゃんは電話を切った。
私は近いうちに子犬を飼うことになると、赤ちゃんは言う。その子犬が向こうの世界からやってくるのだという。それはもう決まっていることで、誰にも変えることなどできないのだそうだ。
近い将来、子犬との出会いが必ず起こるということに、胸がひどく高鳴る。

この赤ちゃんの名前はやはり「ヒロユキ」にしておいたほうがいい。私の与り知らない深い理由があるのかもしれない。私は人生で起こっていることを何も知らず、転がってくるものをただ受け取ることしかしてこなかったのだから。心の中でそう独りごちた。