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夾竹桃

緩いカーブの坂道を下りながら、家へと歩く。中学校の裏手の、よく知る坂道だけれど、あたりは薄暗く、鉛のような灰色の重たい粒子が軋み合っている。道路脇の幼稚園の敷地から、はみ出た木々が侵食している。立派な枝振りで、一枚ずつの葉が異常に大きい。人間の顔二つ分くらいの面積の葉が、我が物顔で道路にせり出し、それを避けて道路の中央近くまで膨らんで歩かなければならなかった。対向車が放つ上向きのライトが、眼底を刺す。車は私を避けるためハンドルを切らねばならず、ドライバーの舌打ちの音が聞こえてくるよう。

車道にできるだけ飛び出ないように気を遣って歩くうち、巨大な葉の一枚が私の頬を掠った。葉の縁は剃刀のように鋭利で、頬には赤く細い線が刻まれた。羽で撫でられたように、全く痛みはなかった。自分の指が赤く染まったことで、それに気づいた。これは夾竹桃という木で、毒があるので有名なんじゃなかったかな。麻酔にかけられていた感覚が戻るように、おもむろにそのことを思い出す。

道路の反対側に渡る。そちらにも街路樹がまばらに生えているが、背の高い落葉樹だった。樹の根元に、蜘蛛の巣が張られている。巣は何重にも重なって分厚くなり、グレーの綿の塊のように見える。そのため至近距離に近づくまで、それが蜘蛛の巣だと気づかない。

鮮やかなピンクと紫の混ざりあった、稀に見る美しい羽を持つ蝶が、蜘蛛の巣に止まった。その色彩は、どことなく不透明で均一な、油性の画材を思わせる、乳白色を混ぜたようなトーンだった。何者かの意図を持ってピンクと紫の色彩が点綴され、その細密さに何らかの意味、例えば解読できる暗号のようなものが隠されているような気がした。

樹に近づき、それが蜘蛛の巣だと気づいた瞬間、気味悪さが込み上げて、不意に後ずさりをしてしまう。突如として調和を掻き擾すような私の動きに、蝶も虚を衝かれたように舞い上がる。宙をひらりと舞った後、蝶は、私の靴の裏と地面のコンクリートとの間に滑り込む。右足で蝶を踏んでしまった私は、慌てて足を上げようとしてよろめき、尻餅をついてしまった。

蝶は、靴底で押しつぶされた後も何事もないように舞い続けていたけれど、その羽ばたきは、痙攣しているかのように、どこか神経質で機械的なものに変わった。

下校中の中学生が寄ってきて、尻餅をついた私を見ている。蜘蛛の巣に驚いたと思ったようで、少年は足で蜘蛛の巣を蹴散らし、ほら、これで大丈夫、と言うような顔で私を見た。作り笑顔ではなく、何の作為もない、どこまでも透明な顔だった。