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宇宙の朝

階段を、目を閉じて上っていく。闇の中を手探りで、ゆっくりと一段ずつを噛みしめる。上り切り、目を開くと、自分の部屋が整然とした美しいものに変わっていた。ベッドの向きが違い、鮮やかなフクシアピンク色でペイズリーのような模様が描かれた、真新しいカバーがかかっている。静謐とした空気の中、大きな花瓶に生けられた緑の葉たちが穏やかに呼吸していた。小さな白い花が一輪、葉陰に隠れて恥じらっているようだった。

他に余分なものは何一つなく、うんざりしていた参考書の類も何もなく、脱ぎ捨てた昨日の服もなかった。残った一合ほどの米が入った袋を小さく折りたたんだものが鞄に入っていたはずなのに、それも鞄ごと消えていた。

これは全く新しい空間、新しい世界であり、空気の質、分子構造からして異なる世界。私から何物も奪わない、私を大きな手のひらの中で守ってくれる空間なのだということがわかった。私はもう大丈夫だ、すべてがあるべき場所にあり、すべてはうまく行くのだと言うことにも、自然なかたちで理解がもたらされる。深い安堵が身体の中でとろけていく。

窓の外から、どこか厳かな印象の陽光が差し込む。これが宇宙の朝というものだ。そんな気がした。空中に浮遊する、到底数えきれない物質のひとつひとつに、ドミノ倒しのようにスイッチが入っていく。それでいながら、空気は微動だにせず、絶対零度に凍りついているようでもある。