SITE MÉTÉORIQUE

Dépôt de Météorites

ミントグリーンの劣等感

中学生の時、たった一度だけ盗みを働いたことがある。盗みと言っても大したことではなく、教室の後ろのロッカーの辺りに誰かが置き忘れた、小さなハンドクリームの容器を持って帰ってきてしまっただけのこと。可愛いミントグリーンの詰替え用のクリームケースに、淡いグリーンの色がついたクリームが入っていた。誰のものか判らなかったけれど、私はなぜか咄嗟にそれを鞄にしまい、そのまま下校した。
何故そんなことをしてしまったのか、自分でも不思議だった。その可愛いミントグリーンを見つめては、当時の私にはうまく言語化出来なかったモヤモヤとした不快な感情に囚われた。

その日のことを思い出すのが嫌になり、しばらく経ってそのクリームケースを捨ててしまった記憶がある。
それは私にとって、女子力の象徴のようなものに感じられ、そのクリームの持ち主に比べて女子力に欠けているということを知らしめられた気がして、悔しかったのかもしれない。悔しいと言うより、もっと自虐的な気分だった。その持ち主に女子力をあからさまに比較され、あんたは劣っているよと烙印を押されたような気がして、ひどく狼狽えたのだと思う。

おしゃれな絵柄のついた可愛いクリームケースを用意して、そこにクリームを詰め替えて、出先でもお肌のケアをする。私はそんな手間のかかることをしようと思ったことさえなく、同学年の女の子がそんなことを普通にしているということが衝撃だったのだろう。そして負けたくないという気持ちが湧き上がり、ちょっとした嫌がらせで復讐した。クリームケースを見つけて鞄にしまうまでのほんの一瞬に、頭の中にこのような連鎖する思いが駆け抜けた。

結局それは誰のものだったかわからないままで、持ち主もただどこかで無くしてしまったと思っているだけで、まさか私が盗ったのだとは気づかなかったはず。私が勝手に、誰かわからない相手に対して劣等感と罪悪感を抱き、その緑色の容器にそれらを込めて、手元に置いて何度も何度も眺めていたのだ。