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ファクトチェック

「ここの浴場は怪しいらしい。浴場としてもエステとしても営業許可を受けてないらしい」と報道局の先輩が言った。「じゃ何で許可を得たんでしょう?」と私が尋ねると、「倉庫」と先輩は言った。「ファクトチェックは大事だな。ニュースはファクトだ」先輩はそう続けた。


倉庫として許可を得て営業している浴場? 何だそれ。私たちは泊まっているホテルの地下にあるらしい大浴場の話をしていた。そのホテルのパーティーのようなものに参加している。バーティーと言ってもカジュアルなものだったが、混んだ電車の中のように身動きが取れない。立食パーティーというより単に混んでいて座る席がないだけにも見えた。


会場のスクリーンでは古いテレビドラマが放映されている。一昔前のもので出演者が皆若い。温泉のシーンでヒロインがバスタオルを体に巻いた格好で映し出された。首から鎖骨のあたり、特に二の腕がとても痩せていて、1グラムの脂肪もついていないように見えた。それに比べると自分はいたって普通の中肉中背なんだろうなと思った。特に太っているわけではないし、私はこのくらいでいいんだと自分に言い聞かせながらも、もやもやとした気持ちが残る。その温泉シーンはここで撮影されたものらしい。宣伝の意味で流されているようだ。


私たちも疲れたからお風呂に入って寝よう、と誰かが言った。私もそれに同意した。すると先輩が「ここの浴場は怪しいらしい。浴場としてもエステとしても営業許可を受けてないらしい」と言った。「じゃ何で許可を得たんでしょう?」と私が尋ねると、「倉庫」と先輩は言った。「ファクトチェックは大事だな」…聞いたことのある会話が繰り返された。デジャヴュ? 私はそれによって自分が報道局の一員になっていて、一緒に旅行に来ているのだということにあらためて気づいた。


部屋に戻り、お風呂に行く支度をする。下着やタオル、風呂あがりに着る物を探すけれど、薄地で透け透けのワンピースしかない。なんでこんなのしかないんだ?と訝りつつも、一番透けの少ないフォレストグリーンに小花柄のワンビースを手に取った。


浴場に降りていくと、扇状に広がった空間に、3つのガラス張りの部屋が現れた。それぞれに、整体やエステなどに使われる施術台と、何の目的に利用するのかわからない不思議な機械が置かれている。歯科医にあったら不自然に感じないような、そんな機械。照明が異様に明るくて、無影灯に照らされる手術台のようにも見えた。

どこにもお風呂がない。どうしようかと考えていると、隣にいた誰かが言った。どうせここまで来たのだから、エステでも何でも受けて帰ろうよ。私たちはガラス張りの部屋に入った。スタッフが近づいてきた。宝塚の男役のような風貌の背の高い女性。言動もどこか芝居がかったいる。丁寧な対応にもかかわらず、人を苛つかせる何かがあった。
脳裏にもう一度先輩のセリフが響いた。ファクトチェックは大事だな。