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ゆきちゃん

ゆきちゃんはとても賢くて、好奇心旺盛な女の子だ。ゆきちゃんは小学校四年生くらいに見えたけれど、もしかするともっと小さいのかもしれない。様々なことを疑問に思ったらすぐに自分で実験してみないと気が済まないのだそうだ。昨日もキャベツから発酵種を作ったのだと話していた。


ゆきちゃんは、私の猫シルくんの次の飼い主に決まった。17歳になったシルくんは、次の飼い主へと譲渡されなければならないことが決まっていた。私は先日も駐車場でシルくんを見失い、泣きべそをかきながら探し回ってようやく見つけたりしたことがあったし、数日ごはんをやるのを忘れていたこともあったし、猫の人生を司る神様から飼い主不適格との烙印を押されたのだった。


ゆきちゃんとは、保健室で面会することになっていた。シルくんは既に数日ゆきちゃん宅に預けられていて(そのようにマッチングして相性などを確認するシステムがあった)、シルくんはすっかりゆきちゃんになついていた。私が保健室に入っていけば、シルくんは私のところに来て別れを惜しんでくれると密かに期待したのだが、彼は始めからゆきちゃんの猫だったとでも言わんばかりに、私のことをちらりと見た後、完全に無視を決め込んだ。私はとても悲しかった。
あと何年生きられるかわからないけれど、シルくんはゆきちゃんのもとにいたほうが幸せだろう。保健の先生が見守る中、私はゆきちゃんに挨拶をした。ゆきちゃんの肩を軽く叩きなから、シルくんをお願いね、と震える声を抑えながら言った。ゆきちゃんは、おののいて後ずさりしたいのを必死にこらえているような顔をしていた。私はひどく嫌われているようだ。


身を裂かれるような思いで保健室を出て、エスカレーターを下っていった。途中でクラスメイトの男子がいて、私の顔を不躾に覗き込んで言った。自分、何真っ青な顔してんねん。その少年は関西出身だったのか、わざと関西弁を使ったのかわからなかったが、ひどくばかにされた様な気分になった。その時の私は、ゆきちゃんと同じくらいの年格好になっていた。