心の不具合は克服しなければいけないものなの？ 例えば、恐怖症によってもたらされる困難と、それを克服するための努力が呼び込む苦痛とを天秤にかけて、後者のほうが上回るとしたら？
治さなければいけないと努力することが、どれほど苦しいことかを体験して初めて知った。その努力によって、むしろ状態はますます悪化しつづけた。
寛解に向かっている途上、自分の心を見つめたり、心を整えるようなことをほんの一瞬考えることさえできなかった。生理的拒否反応に近かった。ただ一切を放棄して流されるままに流された。それが治療だった。
克服しようとすることが克服から一番遠くにある。今は思う。もう諦めて不具合と一緒に生きよう、それでいい。何度もこれからも揺らぐだろうし、これじゃだめなのでは？と繰り返し自分を疑うだろうけど、それでも何も克服しなくていいのだ、しようとしちゃだめなんだ。
何かを克服し苦難を乗り越えて成長しましたという美談があふれる陰で、そうしなければいけないという圧力を感じ取ってむやみに頑張ってしまう人もいる。美談は綺麗な部分だけを切り取った編集済みの物語。そうすると今度は自分の心がねじ曲がっていて他者の美しさを認められないのだと責め始める。
はいそうです。私の心は汚れています。綺麗なものの裏側はどれも汚れているものなのです。汚れという概念がなくては綺麗であるという概念も存在できないからです。表裏一体なのです。それが二元性の真理です。常に両側の価値が同居しているのです。
編集されたものだけ見ているといつの間にかそれを忘れてしまう。
