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両性具有

蒼い闇に沈んだ古い診察室で、カンテラの灯りが滲んでいる。医師と私は対面して座っていた。すべてのものの影が濃く、そして均一な黒さで、医師たちや私といった実態を持つ肉体が投影するものではなく、むしろその黒々とした何かの投影が私たちであるような感覚を抱いた。

主治医が机の前に腰掛け、助手のような存在が後ろに控えていた。医師は、十二分な沈黙を含ませて滴るほどになった言葉を、ようやく産み落とした。あなたの遺伝子は、あなたの実父のものとは一致しません。実母のものとも一致しません。
驚きはなく、何の感情の動きも感じられない。医師たちの目を見る。その瞬間、この医師たちこそが自分の肉親なのだということが何故だかわかった。

彼らの目は、一見ごく普通の東洋人と何ら変わらないのだけれど、眼差しのどこかに青い影があった。ああ、この人たちは人間ではないんだと直観的に理解する。
自分の姿はどうだったか思い出そうとする。瞼の裏の残像のなかからひねり出した映像は、私自身の姿ではなくなっていて、長い間想いを寄せた男性の姿に置き換わっている。私は彼自身であり、彼は私自身だった。両性具有の魂を持つ規格外人間の特徴を、想い人の姿から知ることとなる。

その人物は、あり得ないほどの美しい顔立ちであり、鍛え上げられた完璧な肉体美を持ち、一グラムの贅肉もないように思える。人智を超えた素晴らしい能力も持つという。目尻が少しだけ下がっていて、寝不足が続いた後のような目の下の隈が特徴的だった。鋼鉄も穿つレーザーのような視線。少しだけ黒ずんでいながら、内部機関が透けて見えるような透明な肌。それらもすべて、その規格外人間である証だという。

私は愛する人の体に入って、その人のなかから世界を見ているのかもしれない、その事が信じられずに世界の何もかもが幻のように感じられる。

その人物つまり私は、深夜の診察室から、入院施設へと送られることとなる。地元のS郵便局の入り口から案内されるままに進んでいくと、狭い入り口からは想像もできない広々とした空間が奥に広がっており、ちょっとした体育館のようだった。

真っ白に塗られたばかりで触れればペンキが付きそうな壁に掲げられた案内表の通りに左手の方に進むと、私の入る予定の部屋があった。広い体育館の端の方、奥まった窓際に無機質なパイプ作りのベッドがたったひとつだけ寂しげに置かれていて、それ以外の広い空間では、数人の若い男性がバスケットボールで1on1をしていた。彼らは赤や緑や、色とりどりのプルパーカをオーバーサイズで着崩していて、急に色鮮やかなものを目にしたので頭がクラクラとした。彼らは見たところ規格外人間ではなく、なぜ私の入院する部屋で楽しげに遊んでいるのかわからなかった。異物感を噛み砕くように、私はそのさまをじっと見つめていた。