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隕石の堆積場

幻聴

『あの人に逢えるまで』 半時間ほどの短いフィルム。南北離散家族をテーマにした韓国映画。とてもきれいで優しい映画だった。こういうのがもっと観たいのに意外とない。「シュリ」ブラザーフッド」のカン・ジェギュ監督作品。


何十年もひとりの人を心の中で想い続ける。そんな映画みたいなことはなかなかないと、リアルじゃないと投げ捨てられてしまいそうだけれど、現実に、多分どこにでも転がっていることじゃないのかな。三十八度線で分かたれた夫婦、恋人たちがどれだけいて、どれだけ思いを残していたか、これと同じストーリーが重層的に奏でられ続けているという現実。


記憶を失いつつある高齢女性は、生き別れた最初の夫を待ち続けている。映像では、彼女は夫と別れた頃のまま年をとっておらず、若いまま。多分、鏡のなかに見る自分の姿も、若い頃の姿で見えていたのではないかな。夫のただいまという声の幻聴。毎日夫のための食事を作り、当時の家を決して離れること無く、待ち続ける。ようやく平壌で生きていた彼に会いに行くことができると知り、万感の思いでバスに乗ったけれど、政治に翻弄され、再会は叶わなかった。
このまま時が経てば、彼女は彼を完全に忘れてしまうだろうし、その前に命の灯が消えてしまうかもしれない。


これが離散した兄弟や親子というのであれば、やはり悲しみは悲しみであるけれど、こんなに美しく描けなかったのではないかな。引き離された恋人だからこそ、血ではなく、魂を引き剥がされたからこそ。
主演のムン・チェウォンが、繊細で透明な存在感を醸していて、ピタリとはまっている。日本でもリメイクされた「グッド・ドクター」などで有名だけど、この映画の彼女が今まで見た中で一番良かったと思う。素朴で可憐で、飾らない美しさ。
一生をかけて恋を貫くことのできる強さに、深く共感を覚え、涙が溢れた。こんな恋を体験できる人は数少ないのかもしれない。こんな恋を知る人だからこそ、同じだけの痛みを体験することもできるのかもしれない。人生の美しさはここにある。ここにしかないのかもしれないと思えた。