SITE MÉTÉORIQUE

Dépôt de Météorites

家族が無くなる日

子供の頃から、自分の苗字が嫌いで仕方なかった。なぜだか理由がわからなかったけれど、あとになって大体のことがわかった。 祖父は婿養子でこの家に入った。妻に先立たれた後、内縁の妻だったのが私の祖母。父はその間に生まれた。だから、父と私には全くこ…

心を揺さぶるほどの歓び

子供の頃、必死に練習して、逆上がりが初めて出来た時。雑誌の懸賞で、当時好きだった漫画のジクソーパズルが当たった時。探していた、理想の形のバッグを見つけた時。手の込んだ、美味しい料理を食べた時。ああ、幸せだなあ、と人々が言っているようなシチ…

いちばん可哀想な花

日本でいちばん可哀想な花は、桜ではないかな、と思う。開花時期が、卒業とか入学とか年度の始まりと一致しているからと言って、定型化された感傷の象徴のように仕立て上げられ、その儚げな美を、感動ポルノみたいに消費される。例年、酔っ払いが騒音とゴミ…

忘れがたい友

彼女とは、入学式のすぐ後のオリエンテーションで出会った。学籍番号が近かったので、同じテーブルに座ることになった。私より遅れてやってきた彼女のことをよく覚えている。遅刻したわけでもないのに申し訳なさそうに頭を下げながら、眩しいものでも見るよ…

花一匁

“はないちもんめ”という、古くから伝わる子供の遊び。あれってとても残酷な気がする。私は非常におとなしく内向的な子供だったので、幼少期から特に親しくしていた幼馴染のYちゃん以外の友達には、あまり心を開けなかった。だから存在感が薄かったのだろう…

嫉妬を愛する

スチュワーデスになりたいけど、私なんか可愛くないから無理だよね? そんなふうに周囲に尋ねるクラスメイトの言動に、強い違和感を抱いていた。そう言われたらほぼ100%の人が、そんなことないよ、充分可愛いから大丈夫だよ、と答えるでしょう。充分可愛い…

革に触れることができない

いつのことからか、革に触れることができなくなった。鞄や、財布や、靴や、様々な革製品が耐えられなくなり、昔から持っていた幾つかの靴を除き、今ではほとんど革製品を持っていない。 何が苦手なのかと言われても、うまく言葉で説明できそうにない。私にと…

家族写真の違和感

家族が並んで、カメラの方を一斉に見つめている写真。一般的に、家族の幸せの象徴のように捉えられている、そんな家族写真を見るとき、どうにも抑えられない奇妙な違和感が訪れる。誰も、お互いのことを見ていない。家族以外の人にどう見られるかを意識した…

花を飾るということ

季節が来たら自然に枯れていく花を、盛のときに切り取って愛でるということが、理解できないわけではないけれど……。切り花を飾るということがどうしても苦手。なにかが違う花の香り。どこかが違う緑の吐息。そこに感じるものをうまく言葉にできない。 花を切…

動物を食すこと、植物を食すこと

世の中には、少数派というものが存在することだけで気分の悪くなる人達がいるらしい。ヴィーガンやベジタリアンだったり、LGBTだったり、何でも構わない、ただ少数派である人々が自説を主張するだけで、どうしてそんなに叩こうとするのか私にはよくわからな…

猫の恩返し

もう二十年以上前のこと、家の庭によく来てくれた猫がいた。どこのお宅の猫か分からなかったけれど、飼われていた猫だったと思う。茶色っぽい縞のある毛色で、当時「焼津のマグロ」とかいう猫缶のCMに出ていた猫に似ていたので、うちではその子を「焼津」と…

不老不死の妙薬

アンチエイジングに必死な人は多いけれど。もしもその技術がものすごく進化して、誰でも僅かなお金を出せば簡単に若さが手に入る世の中になったとしたら、そのときに「若さ」というものが価値を持ち続けるのかどうか。そうなったとしたら、きっと価値観の大…

最後のごはん

犬派か、猫派か? と聞かれれば、たぶん私は猫派。犬のようにご主人様の言うことを素直に聞くのは嫌だし、愛情表現も犬のようにストレートでなく、かなりひねくれている。嬉しいときに喜びを全開になど出来ない。猫みたいに狭くて暗いところが好きだし、落ち…

超新星爆発

小学校四年のとき、児童会の選挙というのに立候補させられた。大人の選挙の真似事をして演説し、投票し、役員を決める。内向的の極みとでも言ったような性格の私は、人前に出たり、壇上に上がったりするだけで目眩がしてきそうだった。そこで何を発言したか…

天からの使者

かつて、隣接するS市にある美術館に行ったとき、初めて、てんとう虫を間近でしみじみと見た。美術館の周りには、自然がたくさんあり、美しい池や遊歩道などもあった。作り込みすぎるのではなく、自然のありのままの形をできる限り尊重しながら、それでいて…

自分らしさという嘘

「自分らしさ」という言葉が、生理的に嫌いだった。夢とか希望とか絆とか、手垢にまみれて偽善でしかなくなった言葉と同列で、もう既に意味を持たない、死んだ言葉。あるいは沢山の穢れを背負わされて、内部から崩壊した言葉。 自分らしく、私らしく、なんて…

人として重要なものが欠けている 

子供を産みたいと思ったことがない。それで後悔することはないと思う。親と子という関係性はもう十分すぎるほど味わい、苦しんだと思う。もう沢山だというのが本音だ。誰かの子供であることは、苦しみ以外のなにものでもないと感じてしまう。自分の子供にそ…

過去の私は、私ではない

歳を取ることも悪くない。若さと引き換えに、若い頃には持つことのできなかった経験や知識という宝を得てきたのだから。そう胸張って言える人が羨ましくもある。 私は年月を経る中で、何を失ったのだろうか? 何を得たのだろうか?私は、失った分だけ得てい…

慣れてしまうということ

天然石が好きで、以前は少しずつ買い集めたりしていた。ブレスレットとか、指輪、ピアスなどもそこそこの数持っているのだけれど、段々と身につけることは少なくなってしまった。パワーストーンとして、独自のエネルギーがあるのを感じ取れなくなったわけで…

説明する文章が書けない  

誰もに届きやすいように、噛み砕いてわかりやすく説明する文章というものがどうしても苦手。説明しているうちに、はじめ自分が感じた衝動、それを書きたいと思ったきっかけになった内的な動きをだんだん見失っていってしまうような感じ。説明するという左脳…

ちいさなもの

おおきなものより、ちいさなものが好き。大輪の花より、小さい花が好き。大勢でいるより、少人数が落ち着く。大音量より、耳を澄まさないと聞こえないようなものが好き。 賑やかさよりも、やわらかな静寂が好き。多くを語るより、透き通る沈黙が好き。大袈裟…

香りの轟音

近年、家に出入りする業者さん、ガス屋さんとか、電気屋さん、工務店の方など、皆申し合わせたように同じような香りの香水を付けている気がする。メンズ仕様の、柑橘メインでややシガーっぽい苦味のある、よくある香り。お帰りになった後も、換気しても一時…

カテゴライズ

分類するのに不可欠な必要悪? カテゴライズが苦手でどうしても違和感を拭えない。ひとつの存在の中に様々な側面があり、その比率も角度もそれぞれ全く違う。それによって唯一無二の輝きが生まれる。端数を切り落として単純化しなければ、それに妥協しなけれ…

シュレーディンガーの猫を理解しようとする

『シュレーディンガーの猫』という有名な思考実験。私は物理はさっぱりなので、難しいことはわからないし、的はずれなことを書いているかもしれないので悪しからず。 「物がどのような形態であるかを決定づけるのには、それを観察している存在が無くてはなら…

魂が、人生の夢を見ている

夏目漱石の『夢十夜』という作品。見た夢をモチーフにした短編集。高校生の時に読んで、他の夏目漱石の作品よりむしろこれが強く印象に残った。印象に残ったということ以上に、こういうのもアリなのか!という新鮮な驚きがあった。どこまでが実際の夢の内容…

個人サイトが懐かしい

個人サイトがすっかり衰退して、なんだか寂しい。かつては、個人サイトは自分の作品を展示する場であったり、サイト自体が表現になっていたり、それを鑑賞する楽しみがあった。素材を借りて、サイトのデザインを自分で考えるのも楽しかった。内容のすぐれた…

もっとも必要のない感情

猫の最期を看取ってやれなかった後悔がずっとあった。徹夜して寄り添っていたら自分の体が持たないと思って、寝てしまったらその間に逝ってしまった。うちの猫は飄々としていて何もかも分かりきっているような哲学的な顔をしていたから、すべて承知の上でそ…

あなたのことを100万年前から知っている

ぬいぐるみの夢を見た件で思い起こしたのだけれど、ぬいぐるみを作るのって凄くエネルギーが要る。とくに “目” をつける時。ただの黒いボタンが目となる時、ほんの1ミリのズレでもまるで表情が変わってしまい、全てが台無しになるという緊張感ももちろんある…

携帯電話を持たない選択

電話というものがそもそも大の苦手だった。電話は、自分の時間の流れに突然けたたましく割って入ってきて、ペースを崩される。くつろいでいる時間は完全に外界と切り離されていたい。手紙やメールなら、自分の時間の流れを邪魔されることなく、自分のタイミ…

正しさが常に正しいわけではなく

小学校に上がったばかりの時だったと思う。教室の壁に張り出す時間割表を数人の子どもたちで書いていた。何曜日の何時間目、こくご、さんすう、といった具合にひらがなで書き込んでいった。私が「たいいく」と書くと、他の子達が一斉に囃し立てた。「たいい…